【連載】CS向上を科学する【CS向上を科学する:第133回】(新刊)事前期待 第3部 可能性を拓く―より ~事前期待の探索・サービスモデルマーケティング~公開日:2026.02.18

松井サービスコンサルティング
代表/サービスサイエンティスト
松井 拓己

 当コラムで継続的に取り上げてきた「事前期待」は、サービスやCSを考えるうえで欠かせない視点です。この考え方を軸に、一冊の書籍、「事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~」を刊行しました。これを受けて当コラムでは、第129回130回131回にかけて本書の内容を解説してきました。これまで取り上げた、「リ・プロデュース(再現性と再設計)」、「進化」を経て、本書の最終ステージである第三部「可能性を拓く」では、アプローチ最深部「深度4:探索」へと到達します。そして、価値創造の「もう一人の主役」である「従業員の事前期待」に目を向けます。

図:事前期待へのアプローチ深度0~4

不確実な時代の「探索型」サービス設計

 モノが充足し、顧客自身が「真の課題や事前期待がわからない」という不測の時代においては、従来の「受身型」や「提案型」のビジネススタイルでは限界があります。
 今求められているのは、顧客と共に真の事前期待を「探索」するところから伴走する「探索型」サービスです。
 探索型サービスモデルは、以下の3要素を組み込みます。

1.トリガーポイント(探索の扉を開く)

 顧客の要件を聞く前に、「なぜ行きたいのですか」と問うことで、真の動機を掘り起こし、探索を始めるきっかけを作ります。第3回日本サービス大賞で優秀賞を受賞したアシックスの3D足形計測も、顧客に自分の足の形を正確に把握させることで、ランニング体験の向上(探索)を促すトリガーとなります(アシックスの受賞事例の詳細はこちら)

2.N極(探索の奥地をガイドする)

 顧客の言葉にならない「何か」(例:価値観やこだわり)に注目し、羅針盤として深掘りをガイドします。

3.ラフスケッチ(発見を顕在化する)

 探索で得られた気づきやこだわりを具体的に言語化し、失われないように形にするサポートをします。

 本書では探索型サービスモデルの代表例として、第4回日本サービス大賞の内閣総理大臣賞を受賞したエアークローゼットを取り上げています(エアークローゼットの受賞事例の詳細はこちら)。他にも、旅行代理店の事例では、相談カウンターで顧客の要望に合う旅行プランを提案しても、なかなかプランが決まらなかったため、探索型に切り替えたところ、すぐさまプランが決まり、旅行先から感謝状が送られてくるほど感激してもらえました。
 住宅会社の事例では、顧客に「提案しない」営業スタイルで業績を伸ばしました。「提案しない」代わりに何をするのか?それが「探索」です。顧客に提案書ではなく、宿題を渡すスタイルに転換したことで、顧客にとっての家づくりの本当の拘りを探索しています。

先進事例に学ぶサービスモデルマーケティング

 サービスの価値の可能性を拓くためには、自社の知見や議論だけではなく、異業種の先進事例に学び、視点を広げることも有効です。そこで、日本サービス大賞の受賞事例などを題材に、他社がどのようなサービスモデルで成功しているのかを分析します。ここでは代表的な三つの視点を紹介します。

1.「諦めている事前期待」を捉える(Kit Oisix:第1回日本サービス大賞受賞)

 一般的なミールキットは「手軽さ」を売りにしますが、オイシックスは、忙しい利用者が抱く「手抜き料理に対する罪悪感」に注目しました。あえて「包丁を使うひと手間」「野菜が豊富な料理が2品できる」など、顧客が心の奥底で諦めていた「罪悪感の払拭」という事前期待に応え、多くの顧客の支持を得ています。

(Kit Oisixの受賞事例の詳細はこちら)

2.「送客」から「創客」への進化(イーグルバス:第3回日本サービス大賞受賞)

 赤字の路線バスを再建したイーグルバスは、バスの役割を「人を運ぶ(送客)」から「地域に賑わいを生む(創客)」へと再定義しました。路線バスの運行状況を可視化・最適化したうえで、路線をハブ状にして、ハブとなる拠点に観光施設や商業施設、行政施設などを併設。路線バスの会社が、地域の観光興しと連携した新たな需要そのものを創り出すことに成功したのです。

(イーグルバスの受賞事例の詳細はこちら)

3.「欲張りな事前期待」を刺激する(ChargeSPOT:第4回日本サービス大賞受賞)

 モバイルバッテリーのシェアリングを展開するINFORICHは、充電のために立ち寄る顧客の欲張りな心理を突きました。スポットを設置した店舗でのついで買いを促すなど、既存の行動に新たな価値を上乗せするモデルを構築しています。

(ChargeSPOTの受賞事例の詳細はこちら)

 サービスモデルマーケティングの極意は、これらの事例を単に真似るのではなく、サービスモデルの特徴を抽出して、自社のビジネスに適用可能な形へ「変換」することにあります。

顧客と従業員の事前期待の「クロスポイント」

 人手不足が深刻化する日本において、顧客だけでなく「従業員からも選ばれ続けなければならない」という危機感は不可欠です。サービス・プロフィット・チェーン(SPC)を紐解くと、「ES(従業員満足)が先」と考えられがちですが、ES向上施策(例:残業削減)が、自動的にCS(顧客満足)向上に結びつくわけではありません。鍵となるのは、顧客の事前期待と従業員の事前期待が交差する「クロスポイント」に焦点を当てることです。顧客と従業員の期待が共に満たされることで、「スキ・トクな仕事」つまり仕事の中に「この仕事、好きだなぁ」とか「得意だなぁ」と実感できる場面を増やすのです。

 目指すべきは、CS向上による「成功体験」が、従業員の働きがいを高めると同時に「顧客に喜ばれたい」という事前期待を形成し、さらなるCSを向上させる「進化のスパイラル」です。

再現性から探索まで、成長のエンジンを駆動させる

 私たちが日々携わる業務の知恵や工夫は、属人的なものから組織で安定的に提供できる「再現性」ある価値に変える「リ・プロデュース」(深度0)から、顧客の満たされていない期待を掘り起こす「価値化」(深度1)を経て、さらに顧客と共に価値を創り出す「進化」(深度3)へ、そして最終的に未知の可能性を拓く「探索」(深度4)へと至ります。
この事前期待へのアプローチの5段階は、皆さんの事業の現状の限界を突破し、「今までのやり方」では突破できなかった高止まり問題を乗り越えて、顧客と従業員、両者の成長をドライブさせる強力なエンジンになります。

 長年、当コラムで培ってきた視点が、この一冊で「価値の設計図」として結晶化しました。今回は、書籍「事前期待~リ・プロデュースから始める、顧客価値の再現性と進化の設計図~」の第3部を中心に解説しました。まずは「面白そうだ」「役立ちそうだ」と感じた部分から、小さな設計と実践を試みてください。これを繰り返すこのプロセスこそが、成長と活躍を加速させてくれるでしょう。

 この体系的な「価値の設計図」を羅針盤として手にすることで、単なる業務遂行者ではなく、組織の成長とイノベーションを主導する真のビジネスパートナーとして、未知の可能性を拓くことができるはずです。

松井氏執筆の新刊「事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~」の詳細はこちら

「事前期待」という顧客の目に見えない期待に光を当て、ビジネス価値を飛躍的に高める手法を体系化した実践書。300以上の事業支援経験をもとに、あらゆる業種で活用できる思考法とツールを体系化。属人的な対応から組織的な価値創出へ――変化の時代にこそ読んでおきたい一冊です。 

●著者:松井 拓己
●協力:サービス産業生産性協議会
●発行:生産性出版
●発売:2025年10月20日
●価格:2,640円(税込)

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<筆者プロフィール>

松井 拓己
(Takumi Matsui)  

松井サービスコンサルティング  
代表
サービス改革コンサルタント
サービスサイエンティスト

サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。
著書:価値共創のサービスイノベーション実践論(生産性出版)、日本の優れたサービス2~6つの壁を乗り越える変革力~(生産性出版) ほか


▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
http://www.service-kaikaku.jp/



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