【連載】CS向上を科学する【CS向上を科学する:第130回】(新刊)事前期待 第1部 リ・プロデュースする ― より ~属人化を打破せよ。「価値の設計図」で掴む、再現性と伸びしろ~公開日:2025.11.07
松井サービスコンサルティング
代表/サービスサイエンティスト
松井 拓己
![]()

これまで当コラムで問いかけてきたサービスとCSの本質である「事前期待」をテーマにした書籍が完成し、前回はその中でも「事前期待の的」をモデル化することが、従来の顧客価値向上が直面している限界を突破する鍵であることをお伝えしました。この限界の一つが、個人の経験とセンスに頼る「属人化」です。組織で安定的かつ高精度に価値を生み出し続けるには、属人的ではない「再現性」が必要です。そこで本書の第一部「リ・プロデュースする」では、まずはじめに、現在応えることができている事前期待の中から的を見定めます。これにより属人的ではなく、価値の再現性を高めるための価値の設計図をアウトプットします。
本書の第一部では、事前期待の基礎的な理論をシンプルに取り上げた上で、実際に事前期待の的をモデル化しながら、価値の設計図を描いていくステップや、それをもとにブラッシュアップをかけていくプロセスをガイドしていきます。
事前期待の的をモデル化する3ステップ
【ステップ1】事前期待の分類軸を挙げよう
まず、顧客の事前期待を可能な限り多く、分類軸として洗い出します。「迅速に対応してほしい ↔ 丁寧に対応してほしい」や「なるべく安く済ませたい ↔ 納得できれば高くても良い」という具合です。10分ほどあれば、15個から30個程度の候補がリストアップできるでしょう。
【ステップ2】候補の中から3本選ぼう
次に、洗い出した事前期待の分類軸の候補の中から、「3本」の軸を厳選します。たくさんの候補から、あえて3本に絞ることで、何に注力すべきかについて徹底的に議論するきっかけとなります。1本や2本だけでも、事前期待の的をモデル化することは可能ですが、より実践的かつ効果的な「価値の設計図」にするためには、3本がおすすめです。
【ステップ3】的を見定めよう
選んだ3本の軸によって区切られた8つのエリア(事前期待タイプ)の中から、的となるタイプに◎印や〇印を付けます。ここで全ての期待に応えようと、全てに〇印を付けてしまうと、現場がパンクして実践できない(絵に描いた餅になってしまう)ため、的は3つ前後に絞り込みます。この的によって、現場が具体的に「何をしたら良いか」が明確になり、属人的だった価値創造を組織の力に変え、価値向上の再現性を高める土台が築かれるのです。
本書では、実際に事前期待の的をモデル化した企業の事例やサンプルも複数掲載しています。皆さんの事業に当てはめて考える際の参考にしてみてください。

「無難の壁」を突破せよ
ただし、実際に事前期待の的をアウトプットしてみると、「間違ってはいないけれど、イマイチ」という感想を持つケースが少なくありません。これが「無難の壁」です。この壁にぶつかる原因はいくつかあります。その一つは、「失点撲滅の思考」から抜け出せないことです。クレームや不満をなくそう。そんな思考で考えると、当たり前な事前期待にきっちり応えるための設計図になり、高い価値を再現するものではなくなってしまうというわけです。他にも、「現状の説明にしかなっていない」「提供者都合でしか顧客を捉えられていない」などの原因もあります。
無難の壁を突破するために、本書では、
・都合の良い言葉を封印してみる
・事前期待の重心を移動してみる
・事前期待が生まれる水脈を辿ってみる
・二歩手前の事前期待に着眼してみる
といった具合に、事前期待の的をブラッシュアップするためのガイドも事例と共に取り上げています。
ブラッシュアップを通して、より本質的な事前期待にフォーカスしていきます。このようにして、現在応えられてる事前期待の的をモデル化する「深度ゼロ:リ・プロデュース」に取り組んでいきます。前回も触れたとおり、リ・プロデュースには価値の「再現性」だけでなく、「再設計」の意味が込められています。ここでアウトプットした価値の設計図が、ここから先で、価値を高め、進化させるための土台となるのです。
深度1:価値化~「事前期待の穴」を発掘する~
リ・プロデュースとして、現在の価値を象徴する「設計図」ができあがると同時に、価値の「伸びしろ」が見つかります。それは「事前期待の穴」です。顧客が「応えてほしいのに応えられていない」と感じている期待が浮かび上がるのです。事前期待の穴を特定して、それに応えることで、このサービスが秘めている「眠っていた価値」を呼び覚まします。こうして顧客価値の「伸びしろ」が明らかになれば、焦点を絞った小さな努力で大きな成果を得る道筋が立ちます。
「これまで」の価値の再現性を高めるリ・プロデュース(深度ゼロ)に対して、深度1は価値化のために「これから」どの事前期待に応えるべきかをクリアにするアプローチなのです。
次回は第二部「進化を鼓舞する TRANSFORM」を紹介します。ここでは「期待に応える」という枠を越えて、「安定」から「進化」へのステージアップを目指します。そのために、事前期待の「動き」に着目して、深度3までアプローチを一気に深化させていきます。これにより、じり貧の過当競争の土俵から離れ、「共創優位性」で選ばれるサービス・事業を目指します。
松井氏執筆の新刊「事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~」の詳細はこちら
「事前期待」という顧客の目に見えない期待に光を当て、ビジネス価値を飛躍的に高める手法を体系化した実践書。300以上の事業支援経験をもとに、あらゆる業種で活用できる思考法とツールを体系化。属人的な対応から組織的な価値創出へ――変化の時代にこそ読んでおきたい一冊です。
●著者:松井 拓己
●協力:サービス産業生産性協議会
●発行:生産性出版
●発売:2025年10月20日
●価格:2,640円(税込)
みなさまの声をお待ちしています
いつもコラムをご覧いただき、ありがとうございます。
今後、皆さまの関心やお悩みにさらに寄り添った内容をお届けしていきたいと考えています。
「こんなテーマを取り上げてほしい」「相談したい」「コラムの感想を伝えたい」など、
皆さまの声をぜひお寄せください。現場での気づきや課題感も大歓迎です。
▼ご意見・ご感想はこちら
https://forms.office.com/r/R4h9dZETrE
松井氏が講師を務めるイベント情報

| 「サービスとCSの本質を科学する」セミナー ~リ・プロデュースとステージアップ~(1/27(火)開催) |
サービスやCSを「リ・プロデュース」し、新たな価値を生み出しませんか?
これまで築き上げてきたサービス事業やCS活動をステージアップするために、シンプルな理論と手法を用いて、付加価値型のサービスをモデル化します。また、取り組みの道しるべとして、6つの壁(顧客不在、建前、闇雲、実行、継続、情熱の壁)についてもお話します。
▼セミナーの詳細・お申込みこちら
https://www.jpc-net.jp/seminar/detail/007245.html
| 【1日で学ぶ!5つのフレームワーク】 サービスサイエンス実践セミナー ~サービスとCSの本質を科学する~ (2/10(火)開催) |
300社以上が活用する「サービスとCSの本質論と実践手法」を通じて、属人的な経験や場当たり的な手法に頼らず、どの企業でも再現性のあるサービスサイエンスを実践いただきます。サービスサイエンスの「5つのフレームワーク」を実際に活用しながら、自社のサービスビジネスや、CS・CXの伸びしろを見出していただきます。
▼セミナーの詳細・お申込みこちら
https://www.jpc-net.jp/seminar/detail/007313.html
<筆者プロフィール>
![]()
松井 拓己
(Takumi Matsui)
松井サービスコンサルティング
代表
サービス改革コンサルタント
サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。
著書:価値共創のサービスイノベーション実践論(生産性出版)、日本の優れたサービス2~6つの壁を乗り越える変革力~(生産性出版) ほか
▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
http://www.service-kaikaku.jp/

