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リーダーの声

2016年2月17日

株式会社メイテック 前会長 西本 甲介 氏

「人口急減時代における人材の育成と活用」
(サービス産業生産性協議会 幹事※2007年5月~2015年6月)

 

 

※内容は2015年3月当時
メイテックのビジネスモデル
私共は派遣業ですが、全員が正規雇用、メイテックの正社員です。現在約6300名のエンジニアを約1000社の全国津々浦々の色々なメーカーに派遣しております。無期雇用ですので労働市場から採用して自社の人事制度に即して賃金を支払い、エンジニアですから当然研修という支援も行い、営業という形でお客様のニーズに最もマッチしたエンジニアを派遣するというビジネスモデルです。

 

人口急減時代という事実
サービス産業は、次の3つを押さえる必要があるだろうと思います。GDPの3/4を占めるウエイトの高さも非常に重要ですが、多種多様ということです。生産性を高めようというときは、業種業態、非常に多種多様の中でいかに横串を通すような取り組みが出来るか、というのが非常に難しいテーマでもあるということです。そしていかに一次産業あるいは二次産業をサービス産業化していくかが必要であると思います。3つ目はサービス産業の特性・課題で3つあります。無形性、形がない目にも見えないサービスの価値を、プライスでわかってもらうわけで非常に難しい。同時性(消滅性)、サービスを提供すると同時に消滅してしまう。保管ができず、在庫がもてない。需要の変化に対してその供給量をいかに確保するかということが非常に難しいと言われています。異質性、サービスには必ず人が存在しますので同質のサービスを提供するのは非常に難しい。私は異質性より、属人性が非常に大きいと思います。人が関わるが故に、そのサービス、あるいは品質の標準化ということが非常に難しいと言われています。
サービス産業に携わる人は、大きく経営人材とスタッフ人材の2つに分かれます。スタッフ人材はサービスを提供する人、経営人材はこのスタッフ人材をマネジメントする人です。たとえば経営人材は、いわゆる一般的な企業の経営に必要な経理とか財務とか人事とか経営に必要な専門能力もノウハウも必要ですが、サービス産業の経営人材という側面でとらえたとき、スタッフ人材がいかに成長できるかマネジメントする力が最も必要でないかと思います。

人口急減時代への経営の視点
GDPも、人口の問題と当然直結しています。GDP=労働力×生産性×資本だと言われていますが、労働力は減っていますから、生産性をあげないとGDPすら維持できないというのが日本の経済の実態だと思います。それをミクロにブレークダウンすると企業の業績ということになりますが、これも企業業績=労働力×生産性×資本で、ミクロの企業価値の場合は、マクロで労働力が減ろうとも自社の競争力は高めていかなくてはならないので、企業の場合は労働力をいかに増やすか、生産性もいかに上げていくか、資本もいかに増やしていくか、この3つを全部上げていくというのが企業経営だと思います。ただ企業の場合は、労働力はコストでもありますから、必然的に生産性をあげていかないとグローバルでは戦えない。さらに、サービス業の場合は一般的に設備投資はあまり必要がありません。したがって、資本投下がそれほど必要ないという業種業態が多いというのが実態で、労働力×生産性この掛け算で競争するのがサービス産業の特徴でもあります。特に生産性、単位コストあたりの生産性を高めてサービスの質を高める、量を増やすということを考えていく必要があると思います。

強い会社になるために
私は生産性の向上=社員の成長とシンプルに捉え、社員の成長の総和は、企業の成長だという考え方を徹底すればいいと思っています。そしてこの考え方を徹底してマネジメントすることがサービス産業の3つの特性、無形性、同時性、異質性、という課題にも対処していく方法ではないかと思います。ただし会社側、経営側だけが思うのではなく、社員と共有することが一番大事だと思います。
1999年、41歳の時に社長になりましたが、その時に、まず一番先にどうしたらメイテックという会社を強い会社にできるかと考えました。1991年バブル経済が崩壊した当時も、6000名程のエンジニアをかかえていたのですが、バブルが崩壊した瞬間に稼動数がガーンと下がってしまい、しかも膨大な借金を抱えていたため、半分の3000人をリストラしなければならないという経験をしました。そういうことをすると、一時的にコストが良くなっても社員のモチベーションが下がり、良い人がいなくなってしまいます。全く経営ボルテージが上がらないわけです。そこで、景気変動や、何か苦しい事があってもリストラをしないで乗り越えられる強い会社になるには、エンジニアに成長してもらい、強い理念に立ってもらうしかないと考えました。そして、社員の成長と会社の成長のベクトル合わせを徹底してまいりました。そのおかげかどうかわかりませんが、直近の2008年のリーマンショックの時も稼動率がガーンと下がって厳しい状況になりましたが、おかげさまで6000人のエンジニアを一人もリストラすることもなく乗り越えられました。

社員と会社が成長志向を共有するために
社員と会社がどうやって成長志向を共有していくかですが、メイテックの事例で申し上げると次の3つです。キャリアアップは組織の階段を上がっていくことではなく、自分が職業人として成長することに価値観を抱いているかということ。成長指標を共有すること。そして成長を軸にした人事制度に切り替え、賃金制度、ローテーション制度、研修制度、この3つを全て社員の成長を軸につないでいくということをやってまいりました。
キャリアアップ=自分成長という考え方の共有は、「プロのエンジニア集団」という価値観の共有「市場価値」という価値観の共有「エンジニアという職業を軸にして、成長し働き続ける」という価値観の共有を徹底的に行いました。「プロのエンジニア集団」はメイテックの代名詞であり、これをブランドにしていこうという取組みをしていますが、一人一人がプロフェッショナルなのだという考え方を常に社員と共有することが大事です。エンジニアは、技術力が高いと優秀だという価値観がありますが、いくら技術力が高くても、その技術がお客様に必要とされていない技術だったら、それは本当に高い技術といえるのか。市場に求められお客様に評価されるという価値観を徹底的に共有しました。それが2番目の市場価値という考え方でもあります。派遣は、エンジニア一人一人に1時間あたりいくらと値札がつきます。お客様に評価していただく、市場価値が高いというのは、プロのエンジニアとしての価値が高い、レートが高い、という価値観を徹底的に共有しました。なおかつ市場価値は常に動きます。マーケットの変化に対応してプロの価値を高め続ける、そうすると3つ目のプロのエンジニアとして長く働き続けることが出来る。その最たる事例が生涯エンジニア、60歳を越えても派遣という形でエンジニアとして働き続けることができるようになりました。現在100名くらいおりますが、あと3年位すると200名くらいになる予定です。
2番目の成長指標の教育とは、自分の1時間あたりのレートがいくらか、これを成長の物差しとして共有することです。そしてレート情報だけでなく受注情報も共有してローテンションを組むというオペレーションに変えています。具体的には、派遣エンジニアは、3年から4年でローテーションして、お客様が変わります。そのときに、いままでの経験、技術を生かせるようにするのがキャリアアップ型ローテーションです。2002年に、ベストマッチングシステムというものを作りました。6300名のエンジニアのキャリアデータを定量的な要素でスペック化してデータベース化し、年間約5000件のお客様の受注も、エンジニアのデータベースと同じようにスペック化し、それをITでマッチング化させます。その情報に基づいて、エンジニアがマッチング件数を増やすために身につけなくてはいけない技術、スキル、経験、を本人が納得し、成長できるローテーションをするという仕組みです。
3つ目の社員の成長を軸にした人事制度ですが、賃金制度・・・成果主義ではなく、成長主義という言い方をしている理由は、賃金の昇格要件の50パーセントはレートを市場価値にしています。レートがあがっていかないと賃金も上がっていきません。いかに自分の市場価値を持続的にあげていくか、そういう成長型の賃金制度にしているということです。ローテーション制度・・・キャリアアップ型(≠昇格型)は先ほどお話したとおりです。研修制度・・・「技術力×人間力=総合力」向上支援は社員の市場価値、成長を支援するという考え方です。基本的に研修は土日に行い、強制の研修はほとんどせず、自己啓発で会社の研修システムを利用してもらっています。研修の中身は、技術力×人間力=総合力という考え方に基づいていますが、技術を提供するサービス業ですので技術力を高めるのは当たり前です。それ以上にヒューマンスキルなどの人間力を高める、この二つの側面から体系化しています。全国に33拠点ありますがそのうちの12拠点は研修施設を併設して、そこが研究開発拠点、工場だという位置づけで投資しています。

エンジニアによるエンジニアのための研修
研修は、エンジニアによるエンジニアのための勉強会形式にして、200~300講座のカリキュラムをエンジニアが自分たちで作り毎年リニューアルしています。外部講師はほとんど利用せず、エンジニアが行い、6300名の社員の約1割、約620名が社内認定講師という資格をもっております。ほとんど手当てはつきませんが昇格のポイントにはなっています。なぜエンジニアが講師をするのかというと、一つは極めて実践的な研修で、現場で役に立つことしかやらないということ、2つ目は、ベテランが講師をするので、単なる技術研修ではなく派遣という働き方の研修も一緒にできます。若手のエンジニアたちはベテランがどれくらいお客様から高い評価を得ているか見ていますから、先輩の言うことは良く聞くということです。エンジニアがエンジニアのためにやるということが非常に重要です。そして人間力も一定に持つ、この人間力はなかなか難しいのですが、ベテランから新人まで全社員が、必ず年1回は会社のEラーニングシステムを使って人間力の履修を行います。ひとりでもお客様の中で変なことをやれば、それは自分だけでは済まず、メイテック全員の契約に影響を与えてしまう。バラバラに仕事していても実はみんな繋がりあって仕事していることを忘れるなといつも言っています。もう一つの同時性、在庫が持てないということは機会損失するリスクが大きいわけです。ここ1年、常時1000件くらいバックオーダーをかかえ、お客様のニーズにお応え出来ず機会損失しています。出来るだけ機会損失 を防ぐために、エンジニアの全国ローテーションをしています。全国ローテーションシステムによって機会損失 をなくすと同時に、本人が一番成長できるような受注にマッチングにしていくというオペレーションを行っています。

シニアの活用
シニアの活用は、取り組み始めたばかりですが、実感しているのは、人は年齢と共に個体差が大きくなっていくということです。60歳定年を迎えた後のセカンドキャリアを作らなければいけないので、58歳59歳のエンジニアを集めた社内セミナーなど行っていますが、同じ年齢でも全く違います。肉体年齢も気力も違えば、環境差もあります。年齢が高くなれば高くなるほど非常に個体差が大きい。そこを一律の職務制度と一律のキャリア制度をやろうとするところに無理があると思います。今春闘真っ盛りで、労働組合は組合員イコール社員の平等公平な処遇を重視されます。それはわかりますが、一人ひとりの個体差というものをちゃんと見たほうが、公正な処遇になるのでしょうか。60歳を迎えた時点で、お客様から更に契約を継続したいと言っていただける場合は、契約していただける限り雇用延長します。契約が終了だと言われた場合には、子会社の有期雇用型の派遣会社から派遣をします。
更に、グループ会社のエンジニア職業紹介会社の中で、大手メーカーで技術キャリアを積んだシニアのエンジニアを中堅・中小企業にローテーションしていくということに取り組みはじめています。確かに今、法律で雇用延長ということがありますが、まだまだ段階的に65歳までしていこうという話です。日本シニアの労働市場は大企業ではなくて、むしろ中堅・中小企業の労働市場があると思っています。企業の枠を超えて出来るだけ日本の市場全体を見渡して、シニアだったらどういう労働市場に可能性があるのかということを考えるほうが社会的にも合理的ですし、本人にも会社にも合理的ではないかと出来るだけ選択肢を広げています。メイテックを超えて、まったく関係ない中堅・中小企業の製造業で働くというのも生涯エンジニアの新しいキャリアの選択肢という方向に繋げていきたいと思っています。

加齢による個体差拡大の中での処遇
新卒の人たちは、学歴等の差もあると思いますが職業人としてみたときには、まったく労働経験がありませんから、それほど差がありません。年齢を経て定年に近づくごとに標準的な成長曲線の描くカーブに対して、上に行く人、下に行く人とばらつきがどんどん大きくなり、そのばらつきが一番大きくなるのは、60歳、それをさらに超えた年齢です。年齢の高い、個体差のばらつきが大きい中で、本人と会社にとって合理的な選択肢を提供していくことが大事だと思います。経団連の調査によりますとばらつきを認識して、これからは自分の会社の賃金制度そのものを、ばらつきによりメリハリのある形に変えて生きたいという会社が60%を超えています。これからはひとつの大きな流れとして一律の賃金制度ですべての人を処遇していくのではなくて、この個体差のばらつきの中でいかに公正にフェアに処遇していくかというのが、今後日本の人事制度も賃金制度もかわっていくのではないかなと思います。これは大変厳しいことだと思います。誰しも市場価値が高ければいいですが市場価値が低いことを現実的につきつけられることは、厳しいことです。あえて自分の市場価値と向き合って、長く働き続けるために自分の市場価値あげていこう成長しようという人たちを、会社として支援して少しでも市場価値があがるようにしていくのが、サービス産業ではまさに生産性を高めていく事につながっていくのではないかと思います。サービスを提供している主体が人なわけですから、質の高いサービスを提供するプロフェッショナルな集団を作っていく事がサービス産業の生産性を高めていくことになると思います。社員の成長の総和が成長なのだと、生産性を高めていくということは、一人ひとりの社員の成長を実現していくことなんだ、支援していくんだ、そういう考え方でマネジメントを徹底するというのも、人という側面で見たらサービス産業の生産性向上の一つのアプローチではないかと思います。

 

(SPRINGシンポジウム2014in名古屋にて)