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リーダーの声

2014年3月25日

株式会社王宮(道頓堀ホテル) 専務取締役 橋本 明元 氏

 「日本を好きになっていただくおもてなしとサービス」

 

 皆さん、こんにちは。道頓堀ホテルの橋本明元(はしもと みんげん)です。皆さん変わった名前だと思われると思いますが、実は私の父が中国人で、母が日本人です。小さいころは中国人の血が入っていることで日本人から虐げられているのでは思い、劣等感を感じておりました。それを克服するために、中学生の時はテニスを一生懸命やりました。中学から大学まで同じ学校で進級できましたので、進路などをゆっくり考えることができました。父が経営した会社を息子だからといって後継するのは、良くないのではないかなと、その時思いました。
  
そこで最初に、義足や車椅子などを販売する会社に入りました。「人のために尽くすことのできる人募集」と書いてありまして、面白そうだなと思ったからです。あえてホテル業界と全く違うところに行きたいと思ったのもあります。今、私の兄が当社の社長をやっておるのですが、当時兄が父の会社に入ってくれたので、違う道に行こうと思いました。
 
 
道頓堀ホテルに入って~中国での経験
そこで自分の転機がありました。―私は自己紹介を大事にしているのですが、経営者は人生哲学を大切にしなければならないと思っており、私のこれまでの人生観が、経営に現れていると感じておりますので、少し長くなりますが、お聴きください。
 
今から約15年前、24歳の時に、華僑である祖父の故郷に行きました。華僑というとお金持ちというイメージがあるかもしれませんが、祖父は農家に生まれ貧しかったのです。故郷では食べ物がなく、ガスもなくトイレもなく、床は土という家に暮らしていました。祖父は半分乞食のようになり日本に捨てられ、日本に奴隷としてやってきたのですが、そこで身を立て、最後はホテルをつくるまでに至りました。それまで、祖父の成功は自分とは関係ないと思っていましたが、故郷を初めて見たとき、感動しました。通訳の方が、「おじいさんは食べ物がなかったのですよ」とおっしゃった時、自然と涙が出てきて、「あ、この(祖父の)会社、潰したらあかんな!」と思ったのです。祖父がつくり、父が守ってきた会社を絶対潰したらあかんと・・・。自分で力をつけたら、親の会社に入って応援させていただきたいと思いました。それで、前の会社に合計4年間勤めた後、当社に入りました。
 
道頓堀ホテルに入った当初、やることがありませんでした。ホテルのことが一切わかりませんでした。応援したいと思って入ったのに、やることがない・・・。下っ端として入社しましたが、社長の息子ということで、周からはチヤホヤされます。業者の方は敬語を使ってきますし、先輩・上司は気を遣ってきます。これは良くないなと思いつつも、段々慣れてくる自分があって、ある時、総務課長が「明ちゃん」と声をかけてくださった時に、「敬語使えや」と思ってしまった自分がいました。その時に、「あかんな」と反省しました。ここにいたら自分が腐ると思い、会社を辞めました。今から6年前に会社を辞めて、そして中国に行きました。
 
 
私は中国語が一切できなかったので、一から言葉を勉強しました。お金がなかったので、家内と一緒に行って、学校の寮に住みました。中国語は一年間で覚えました。中国に行った理由ですが、厳しいところに自分を置こう、とにかく厳しい経験をしたい、修行をしたいと思ったからです。日本のホテルに入って修行をすることも考えましたが、それよりも海外で厳しい環境に身を置くべきと思いました。また、いつか中国のお客様が日本に来るのではないかと思ったことも理由の一つです。がんばって言葉を覚えて、現地のホテルで働いて、その人脈を生かして、いつかお客さんを引っ張ってきたいと思いました。
 
現地に行って一年後、SARSという病気が流行りました。皆さんご存知のとおり、上海で多くのホテルが営業をストップし始めました。なかなか就職どころではなくなりました。しかし、「ボンボン、三年頑張って力をつけてくると言ったのに、一年で帰ってきたのか」と当社の社員さんに思われたくない一心で、一件一件ホテルを回りました。そして開業しているホテルに「給料なくてもいいから、雇ってください!」と言って訪問したところ、運よく上海の4ツ星中堅ホテルが私を雇ってくれました。このホテルには、今でも本当に感謝しています。給料が安くなり生活が苦しくなったので、妻も一緒に働きました。
 
 
シャングリラホテルで学んだこと
一年後にそこから転職をしました。世界的なチェーンホテルで働いてみたいと思ったのです。マーケティングも勉強したかった。中国でナンバーワンのシャングリラホテルのマーケティングにとても興味があり、そこに行くと決まった時に、周りから「やめとけ」と止められました。シャングリラの前任者はうつ病になったそうで、そこで働くとおかしくなると思われたのです。でも、私は厳しいところで働きたかった。シャングリラは、仕事ができなかったら一瞬でクビです。給料も歩合制です。また、生活も苦しくなり、ちょうど子どもができて家内が仕事をできなくなったので、シャングリラに入社を決めました。ここでの3年間が私の今の経営の根幹になっているところです。
 
まず良かったことが、ここでマーケティングを勉強させてもらったことです。また、日本の上場企業の経営者にたくさんお会いすることができました。偉い人にあったからどうというのではなく、偉い人は非常に謙虚だということを肌で実感できたからです。
 
ユニクロの柳井さんは大好きな方で尊敬しているのですが、やはり非常に謙虚な方でした。VIPなのでスイートルームを用意されるのですが、いつも「シングルでいいわ、こんな広い部屋いらんわ」とおっしゃっていました。また一番印象に残っているのは、カネボウの若い社長さんです。お見送りの時、一スタッフにまで「お世話になりました」と90度頭を下げていかれたのです。その時に、「ああ、すごい人やなあ」と思いました。その方は42歳でしたが、若くトップになったのはやはり謙虚だったからではないでしょうか。
 
と同時に、中小企業の社長さんは、非常に偉そうな方がいらっしゃいました。虫けらのように扱われて、悔しい思いをしたことがあります。そこで気づいたことが二つあります。一つ目は、日本でうちのホテルに戻ったら、常に謙虚で、社員やアルバイトの皆さんに笑顔で接しようと思ったことです。
 
二つ目は、ホテル業界というのは、なんて地位が低いんだろうと知ったことです。我々はホテルで「世界中の人に想い出を売っている尊い仕事をしている」と思っていたのに、なんでこんなに見下されなければならないのかと、悔しくてしかたがなかったです。いつか日本に帰って、絶対に業界の活性化をしようと思いました。所詮小さい会社ですが、必ずそこで業界の活性化をすると・・・。日頃、うちの社員さんから、「なぜうちの戦略をそんなに口外するのか」と言われます。でも「かまへんや」と思っています。日本のホテルや旅館がもっと活性化して、従業員全体が活き活きとするようになれば良いのではないかと思っています。
 
他にもシャングリラの経験で良いことがありました。毎日気が狂うくらいクレーム対応をしたことです。中国では、料金は一律でもサービスがめちゃくちゃということがありました。そこでの経験が、今の力になりました。
 
そして6年前、中国から戻って当社に再入社しました。すぐに海外戦略には当たらずに、一年間いろんな国を見て回って、マーケティングをしていました。その一年後、価格競争に巻き込まれていくことを実感しました。2008年ころには8割、その後9割が海外のお客様になりました。
 
 
道頓堀ホテルの概要
私たちの戦略は、一言でいうと選択と集中です。普通ホテルというとレストランを持っていますが、当社はレストランを持っていません。完全予約制の宴会宿泊プランでの会食のみです。すべてのお客様に100%の満足を与えるのは難しいです。一部のお客様に150%の満足を与えるのが、中小企業です。宴会事業は、「こんなので儲かるか」と言われますが、完全予約制なのでロスがありません。うちには若いお客さんが来ますが、だいたい何を注文するかわかりますので、商材に関してもまとめて注文ができます。ですので、売り上げの経常利益が10%くらい取れます。宴会では、中華しか出しません。和食をやってしまったら、安くいいものが出せず、結果的に美味しくないので、喜んでいただける料理を徹底的に安くしています。
 
2011年に新型インフルエンザで宴会したらいけないモードになり、売り上げが落ち込みました。また、震災の影響で少し落ち込んだのですが、2012年に過去最高の経常利益になりました。宿泊は経常利益で18%近くになりました。
 
 
道頓堀ホテルの理念・ビジョン、そして社風
経営理念が心の底から大事だと思っております。道頓堀ホテルの経営理念は『誠実な商売を通じて、心に残る想い出づくり』です。誠実とはなんぞやと父に聞きました。祖父が失敗をしてしまって、赤字の会社になってしまったそうです。しかし、父が継いでから赤字を一回も出していません。なぜなのか聞くと、「一つだけ言えるとしたら、マジメに商売をしてきたからかな」ということでした。お客様、社員、社会に対して、マジメに商売し、社会保険にはしっかり加入し、ビールの本数をだますということも決してしませんでした。そういう積み重ねがあって今があるので、私は「誠実」を商売の価値基準と感じています。非常階段をつけるにも4000万円かかり、赤字なのでいつかやろうと悩むことがありました。しかし、やはり万が一人が火事で亡くなってはいけないと、後回しにせずにきちんと取りかかりました。
 
また、うちのホテルは世界中からお客様がきます。日本人からしたら安いかもしれませんが、彼らは何カ月も貯金をして、楽しみに旅行に来ています。いつも社員さんに言うのは、「僕らは部屋を売ってるんじゃないで、想い出を売ってるんや。しかも、普通の想い出とちゃう、心の想い出なんや。」と。宴会は8割がリピーターですが、来るたびに「今度はこんなことをしてくれた」という想い出を売っているのです。
 
もう一つ大事にしていること、それはビジョンです。私は常々、「(一緒に働く人と)ともに幸せを感じる会社をつくりたい」と思っています。そこで働いているスタッフが幸せでなかったら、経営している意味がないと思うのです。残念ながらそう思ってくれていないスタッフがいると、なんでだろうなと悩んで研究しています。でもいつかこの思いが実現したら死んでもいいなと思っています。よく顧客満足と言いますが、これは社員満足のための顧客満足だと思います。社員さんに、どういう時に幸せを感じるかと聞くと、全員「お客様からありがとうと言われたとき」と言いました。ですから、圧倒的な顧客満足のホテルをつくろうと思いました。
 
行動信念ですが、戦略はこれに尽きるなと思います。うちはこうです。「誰もやっていないお客様の夢があったら、実現し続けます」。この業界では、固定概念を覆さなければいけないと思っています。私が提案した時に、兄以外、全員反対しました。例えば、国際電話を無料にしています。また、30か国の外貨を手数料無料で両替しています。社員は「そんなのどこもやってません」と反対するのです。シンプルに、なるほどなあと思いました。固定概念があると前に進みません。社風を変え、新しいサービスをつくらない限り、利益は出ません。どんなに理念が浸透していても、固定概念を変える勇気を持たない会社は、うまくいきません。
 
そこで、こんなことをやりました。一つは朝礼で昨日一日のよかったことをお互いに発表しあうことです。日創研が出している「理念と経営」という本を、社員さんからパートさんまで一人ずつ配って読んでもらいました。そして、設問を一か月前に配って、皆でディスカッションをします。営業と現場の人間が仲が悪かったこともありましたが、これをやっていくと、部署間の壁が崩れました。60代のパートさんも、最初は勉強会を嫌がりましたが、でも「人が幸せになるためには、勉強する必要がある。だから勉強してほしい。」と説得しました。毎月やるので大変ですが、皆一生懸命取り組んでくれます。勉強会で、スタッフの悩んでいること、できる仕事が分かってきます。
 
それから、お誕生日には「いつもありがとう」とバースデーカードをお互いに渡します。もらうカードが多ければ多いほど、その人は仕事ができます。人からの感謝率が高いからです。 

~中略~

 

道頓堀ホテルの戦略
ホテルはお互いに「稼働率」と言い合います。小さいホテルは負け組で、近くにブランド力のある大手ホテルがあれば、そこにお客さんが取られます。うちがなぜダメなのかなと色々考えたときに、閑散期がありました。もともとパイが少ないところで価格を安くする手を打っても意味がないなと思いました。そこで、韓国のお客様がピークの12~2月にあるということに目をつけて、韓国のお客様を呼び込んだら、埋まるのではないかと思いつきました。また、連休後の梅雨の時期はガラガラですが、ちょうどシンガポール・マレーシアはこの時期お休みが長く、観光のピークなので、こちらも誘致しようと。海外のお客様はだいたい3日くらい連泊してくれるので、チェックイン回数が少なくなります。そうすると、お客様と会話をすること等のサービスに時間を割くこともできます。
 
ビジネスホテルの固定概念は「出張者の方がお安く泊まれるためにサービスを簡素化する」ことです。しかし、海外からの観光客もこういう安いホテルに泊まるのに、海外のお客様向けに徹底的にサービスをしているビジネスホテルはありませんでした。じゃあそこをつくったらいいんやないかと思い、「海外のお客様に徹底的にサービスをするホテル」をやることにしました。
 
ターゲットを絞って、大手旅行社の契約もやめにしました。ターゲット先は香港・台湾で約6割、韓国・シンガポール・マレーシア・タイです。中国は団体客メインです。個人客は富裕層が多いので、うちはターゲット外にしています。そして20代女性が多いので、彼女らが喜ぶことを徹底的にやろうと考えました。一部のお客様にターゲットを決めて徹底的にやると、そこが際立つので、ターゲット外のお客様もそこに反応します。
 
具体的サービスとしては、国際電話の24時間無料通話、パソコンの無料使用、テレビの海外番組視聴可などです。ロビーは24時間開放で飲食可能で、夜はそこで宴会もできます。ドンチャン騒ぎにもなります。でも、お客様が迷惑になるから禁止というのは、大きな固定概念です。部屋には禁止事項も書いていません。シャンプーを持って帰られても、ええやないかということにしています。「こういうことがあったらどうしよう」と、クレーム客についつい目がいってしまって、お客様の満足を失っては意味がないのです。
 
ベビーカーも無料で貸し出ししています。「ホテルでこれがあればお客様はもっと買い物できたのに、これができたのに」とならないよう、サポートできるようにしています。イスラム教の方向けにハラルのお料理を追加料金無しでお出ししています。お客様が喜ぶことをしたいと思います。お客様の誕生日には、「リクローおじさんのチーズケーキ」をお出ししています。いつも思うのですが、「これをやったら儲かる」ではなくて、まずお客様の満足を考えることです。その後に利益が出るように考えるのが、経営者の仕事だと思います。
 
そしてどこまで絞ったかと言うと、日本の文化・おもてなしを体験できるホテルになるところまで絞りました。ここまで絞ったのは、うちしかありません。海外のお客様に徹底的にサービスする旅館はあるかもしれませんが、ホテルはうちしかありません。いずれ真似されるかもしれません。でも、真似されないところは何かというと、「面倒くさいことをする」ことです。毎週火曜日にロビーで日本の食文化を体験できるイベントをしています。例えば、東横インにチェックインをして、横でたこ焼きの「ジューッ!」という音を聞いたら、「なんやこれは!」と思うでしょう(笑)。でも、お客様は喜んだのです。今日は輪投げをやっています。

~中略~

 

最後に
最後になりますが、経営というのは、何のために経営をするのかが大事です。震災のときに「そうや」と思ったことがあります。世界中のメディアが「普通震災のときは食糧を奪い合うが、日本人は並んで分け合っていた」と称賛しました。日本人はこんなに美しい心を持っているのかと・・・。その日本人の美しい心やおもてなしの精神を、我々がホテルを通して世界に発信したいと思います。
 
ご清聴、ありがとうございました。
 
(以上)
 
橋本明元氏・談 
SPRINGシンポジウム in 関西(2014313日開催) 講演録
 
 ※本記事は、講演内容を事務局にて編集し、掲載させていただきました。「経営戦略」等の詳細のお話を盛り込んだノーカット版は、後日開設予定のSPRING会員専用ページにて限定公開いたします。ぜひお楽しみください。
 
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道頓堀ホテルの詳細は、下記公式HPをご覧ください!