【連載】CS向上を科学する【CS向上を科学する:第135回】サービスサイエンティストを育てよう(2/2) ~顧客価値を設計し、CSサービスのレベルアップをけん引する~公開日:2026.04.10
松井サービスコンサルティング
代表/サービスサイエンティスト
松井 拓己
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サービスを『設計対象』として捉え直し、価値を構造化する専門職『サービスサイエンティスト』の必要性とその役割についてお伝えしました。そこで浮き彫りになったのは、多くの企業においてサービス設計という役割が『誰の仕事でもない』まま放置されているという現実です。しかし、実際にこの役割を自社に置こうとしたとき、『そんな特殊なスキルを持つ人材は採用できない』という壁に直面します。実は、今いる社員が持つ既存の強みに、新たな視点を重ね合わせる『第二の専門性』という考え方こそ、打開策になります。
「π(パイ)型人材」への進化:第二の専門性としての実装
「そんな特殊な人材を外部から採用しなければならないのか」という懸念があるかもしれませんが、答えは「ノー」です。サービスサイエンティストは、最初からそれ単体で存在する職業ではなく、既存の専門性に重ねて手にする「第二の専門性」として捉えるべきものです。従来の「I型人材(一つの専門性)」や「T型人材(幅広い知識+一つの専門性)」を超え、二本の主軸を持つ「π型人材」への進化を目指します。
「営業 × サービスサイエンス」「開発 × サービスサイエンス」「企画 × サービスサイエンス」というように、現場の痛みや制約を知っている社内の人材がこの視点を持つことで、設計図が「浮いた存在」にならず、取り組みを確実に前に進めることができるのです。
一見、天性の才能に見える優秀なスタッフ(ハイパフォーマー)の振る舞いも、実は「期待のズレを感じ取る」「価値が生まれる瞬間を見極める」といった構造的な能力を無意識に扱っているに過ぎません。サービスサイエンスという第二の専門性は、こうした個人のセンスを可視化・言語化し、組織全体で再現可能な「技術」へと昇華させるための手段です。これにより、特定の個人が異動しても成果が落ちない、強固な組織能力が形成されます。
このサービスサイエンティストの育成は、大げさな肩書きを与えることから始める必要はありません。日々の業務の中で、「このプロジェクトで顧客体験を言語化してほしい」「他社事例を自社向けに翻訳してみてほしい」といった小さな役割を付与することが、個人のセンスを組織の共有知に変える第一歩となります。
サービスサイエンティストがもたらす「静かな強さ」
サービスサイエンティストという役割が組織に定着すると、現場には「地味だが決定的な変化」が起き始めます。
まず、現場の会話が「精神論」から「構造論」へと変わります。「次はもっと頑張ろう」という感覚的な振り返りではなく、「どの事前期待に対して、どの体験が効いたのか」という論理的な分析が行われるようになります。これにより、「やらなくていい努力」が明確になり、現場の負担を増やすことなく価値を高めることが可能になります。
また、経営層にとっても、サービスに対する投資判断の質が劇的に向上します。価値が構造化されることで、ROI(投資対効果)を「どの期待に、どんな価値を積み上げているか」という情報に基づいて判断できるようになるからです。
本当に強い組織とは、一過性のブームを作る組織ではありません。
- 改善が途切れることなく「線」として続く
- 担当者が変わっても価値の質が落ちない「面」としての組織力が向上する
- サービスの進化や革新が一過性ではなく「積み上げ型」になり、加速する
こうした「静かな強さ」こそが、価値を生む構造を意図的に設計している組織が手にする果実です。
価値を「まぐれ当たり」に任せない組織へ
「サービスは重要だ」と語りながら、その設計責任が曖昧なままでは、企業の成長は静かに止まってしまいます。サービスサイエンティストという名前をつけることは、単なる流行りの肩書きを与えることではありません。それは、これまで「誰かが暗黙的にやっていた名前のない仕事」に光を当て、正式な「役割」として定義することです。
名前がつくことで役割となり、役割になることで人を育てることが可能になり、最終的には他社に真似できない強力な組織能力へと昇華されます。
「あなたの組織には、サービスを『設計』する人がいますか?」
この問いに自信を持って答えられる体制を整えることこそが、成熟市場における競争を勝ち抜き、価値を積み上げ続ける道です。サービスこそが、モノや仕組み以上に設計されるべき最大の経営資源であることに気づいたとき、組織の未来は確実に変わり始めます。価値を「偶然」に任せず、自分たちの手で「設計」すると決めた組織こそが、次代のリーダーとなるのです。
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●著者:松井 拓己
●協力:サービス産業生産性協議会
●発行:生産性出版
●発売:2025年10月20日
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<筆者プロフィール>
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松井 拓己
(Takumi Matsui)
松井サービスコンサルティング
代表
サービス改革コンサルタント
サービスサイエンティスト
サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。
著書:価値共創のサービスイノベーション実践論(生産性出版)、日本の優れたサービス2~6つの壁を乗り越える変革力~(生産性出版) ほか
▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
http://www.service-kaikaku.jp/




