【連載】CS向上を科学する【CS向上を科学する:第134回】サービスサイエンティストを育てよう(1/2) ~顧客価値を設計し、CSサービスのレベルアップをけん引する~公開日:2026.03.27

松井サービスコンサルティング
代表/サービスサイエンティスト
松井 拓己

売上向上のために新たな施策を打ち、顧客満足度を高めるための改善を積み重ね、現場は以前よりも確実に忙しくなっている。しかし、それにもかかわらず成長の実感が持てず、次の一手も見えてこないという状況は、特定の業界に限った話ではありません。製造業、IT、金融、流通、そしてB2B・B2Cを問わず、多くの組織が「努力が報われにくい構造」の中に閉じ込められています。ポジティブに言えば、「これまでのやり方は成熟し、成果が高止まりしている」ともいえるでしょう。現状の延長線上から抜け出して、非連続な成長や進化を遂げるカギは、「サービス」や「CS」、そして「顧客価値」の設計にあります。それを担い、事業成長をけん引する立役者として、『サービスサイエンティスト』を社内に育成する企業が増え始めています。今回はその一旦をお話しします。

サービスを「設計対象」として扱ってこなかった組織の病理

多くの企業では、製品(プロダクト)やシステム、業務フローやKPIは緻密に「設計」されます。しかし、ビジネスの核心であるはずの「サービス」についてはどうでしょうか。顧客がどのような事前期待を持って接点に来るのか、どの瞬間に価値を感じ、どの瞬間に失望するのか、そして関係性が時間軸の中でどう積み上がっていくのか。こうした本質的な領域は、多くの場合「現場の裁量」や「担当者の経験」というブラックボックスに委ねられてきました。

その結果、組織にはいくつかの深刻な副作用が生まれています。 第一に、「あの人がいれば回る」という属人化の罠です。特定の優秀な個人に依存する組織では、その人が異動や退職をした途端に成果が落ち、その成功要因も「感覚」や「経験」としてしか説明されないため、組織として学習が進みません。 第二に、「改善を重ねるほど再現性が失われる」という矛盾です。現場が良かれと思って「ケースバイケース」で個別対応を繰り返すほど、判断基準はバラバラになり、組織としての「サービスの型」が育たなくなります。努力が組織の資産(ナレッジ)にならず、その場限りの対応で消費されてしまうことこそが、停滞の正体なのです。

サービスを「設計可能なプロセス」と捉え直す

この消耗戦から脱却するためには、サービスを「センス」や「勘」の世界から、「設計可能なプロセス」へと引き戻す必要があります。映画や小説に脚本があり、料理にレシピがあるように、感情を扱うサービスにも明確な構造が存在します。価値は決して偶然生まれるものではなく、「事前期待 → 体験 → 評価 → 次なる事前期待」という一連の流れの中で生み出されるものです。

  • 顧客は、どのような事前期待を持っているのか
  • それに応えるには、どこが勝負プロセスなのか
  • 現場の個人芸に頼り切りにならないための仕組みとは何か

これらを構造として理解したとき、組織の問いは「誰の対応がうまいか」から、「どう設計すれば、誰でも一定以上の価値を出せるか」へと劇的に変わります。

「サービスサイエンティスト」という新たな役割

立派な「戦略」はあっても現場に届かず、現場の「工夫」は組織に積み上がらない。この巨大な空白を埋めるために必要なのが、「サービスサイエンティスト」です。彼らはコンサルタントでも単なる現場担当でもなく、組織の「あいだ」を主戦場とします。

  • 戦略と現場のあいだ:経営層の抽象的なビジョンを、具体的な顧客体験の設計図に翻訳する。
  • 企業と顧客のあいだ:顧客の言葉にならない期待を構造で捉え、価値のズレを防ぐ。
  • 理想と実装のあいだ:見えない価値を可視化し、再現可能な仕組みへと落とし込む。

サービスサイエンティストが担う中核的な役割は、主に以下の3点に集約されます。

  1. 「見えない価値」を再現可能な設計図に落とす:ベテランの勘や「空気感」を分解し、「どこで、どの期待に対し、どんな体験を、どの順序で提供すべきか」を論理的な設計図に変換します。
  2. 顧客の「事前期待」を読み解く:サービスの評価は「提供される前」にほぼ決まっています。顧客の期待を見誤った「的外れなサービス」を防ぎ、価値を正しく届ける設計を行います。
  3. 異業種事例から「構造」を抜き出し、翻訳する:表面的な仕組みを真似るのではなく、「なぜそのモデルで価値が生まれているのか」という構造を抽出し、自社の文脈に翻訳して実装します。

このように、サービスサイエンティストという役割は、戦略と現場、あるいは企業と顧客の間に横たわる『空白』を埋め、価値創造を偶然から必然へと変える極めて重要な存在です。しかし、ここで一つの大きな疑問が生じます。これほど多岐にわたる高度な役割を担える人材を、一体どこから連れてくればよいのでしょうか。外部から特別な専門家を採用しなければならないのか。もちろんその手もあります。しかし、そうでなければ、社内で未知の才能を探し出す必要があるのか。次回の記事では、この新しい専門職を組織に無理なく、かつ確実に実装するためのアプローチについて詳しく掘り下げていきます。

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<筆者プロフィール>

松井 拓己
(Takumi Matsui)  

松井サービスコンサルティング  
代表
サービス改革コンサルタント
サービスサイエンティスト

サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。
著書:価値共創のサービスイノベーション実践論(生産性出版)、日本の優れたサービス2~6つの壁を乗り越える変革力~(生産性出版) ほか


▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
http://www.service-kaikaku.jp/



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