連載コラム

    SPRINGとは

    入会案内

  • 日本サービス大賞
  • JCSI 日本版顧客満足度指数
  • 大人の武者修行バナー

    cafeバナー

    SPRINGフォーラムバナー

    日本サービス大賞

    日本サービス大賞

    会報バナー

    書籍紹介

    提言・宣言

  • 提言・宣言
  • ハイ・サービス日本300選

     

  • リンク
  • SES Service Evaluation System:サービス評価診断システム

     開発・運営:(株)インテージ

【連載】CS向上を科学する

2015年4月21日

第9回 事前期待のマネジメントとは~なぜお客様に喜び続けていただくことは難しいのか?~




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己


本連載で触れてきたサービスやお客様満足の本質を理解すると、サービスビジネスにおいて最も重要なのは、お客様の事前期待を掴むことだとご理解いただけたと思います。

*特にCSやサービスの本質については、第1回(顧客満足の本質とは?)や前回(サービスの本質に迫る、サービスの定義)の記事をご覧ください。

しかし実際にそうお伝えすると、「松井さん、現実はそう甘くなくて、事前期待を掴んで応えるだけでは上手くいかないんじゃないですか?」と質問を頂くことがあります。実はそれは、事前期待にとても”厄介な”特徴があるからなのです。


事前期待はすぐに膨らんでしまう

例えば、営業マンがお客様に「なんでもやります!」と言って受注すると、サービス提供をどんなに頑張っても、お客様になかなか満足していただけない、ということがあります。これは、「なんでもやります」と言ったことで、お客様の事前期待が過剰に膨らんでしまったことが原因です。確かに受注を取るためには、お客様の事前期待をある程度膨らませなければなりません。しかし、むやみに事前期待を膨らませるのは得策ではないのです。

さらにはこんなこともあります。お客様とのお付き合いが長くなってくると、時には例外的なお願いに対応したり、他のお客様にはない特別なサービスを提供することがあります。こんな特別扱いに最初はお客様はとても喜んでくれますが、いつしか「特別扱いは当たり前」と言わんばかりに、喜んで頂けなくなります。このように、お客様とのお付き合いが長くなって、良いサービスを提供すればするほど、お客様の事前期待は膨らんでいくのです。すると、サービスレベルを維持しているだけでは、いつしかお客様の事前期待の方が大きくなって、「以前はよかったのに・・・」と、お客様を失ってしまいます。サービス企業の宿命として、時間とともに高まるお客様の事前期待以上に、自社のサービスレベルを高めていかなければならないのです。

しかし近年では、サービスレベルが上がっても値上げを簡単に認めてもらえない時代になりました。この状況で、サービスレベルを高める努力を続けると、徐々に投資が収益を圧迫して、いつかは事業が立ち行かなくなってしまうことも考えられます。サービス企業にとって、お客様の事前期待が高まり続けるのは、死活問題なのです。そこで、サービスレベルの向上よりも大切なのが、事前期待を適切にマネジメントすることです。これをサービスサイエンスでは「事前期待のマネジメント」と呼びます。


高まりすぎた事前期待は妥当な水準に

事前期待のマネジメントは、なんだか難しそうに聞こえるかもしれませんが、実は日常生活の中に事例がたくさんあります。

例えば東京ディズニーランドでは、アトラクションの待ち時間を表示することや、行列を少しずつ前進させることで、お客様の「早く入りたい」という事前期待を上手にマネジメントしています。他にも、「注文されてからゆがきます」と前置きして注文を取る蕎麦屋や、サービスの進捗をウェブで公開して利用者のイライラを解消するサービス会社などもあります。

このように、事前期待のマネジメントは「高まりすぎた事前期待を妥当な水準に冷ます」というものが多く見受けられます。お客様の事前期待は時間とともに膨らんでしまうので、事前期待を本来の水準にマネジメントしなければならないのです。

しかし一方で、「事前期待に膨らませる」方向の事前期待のマネジメントもあります。例えば、新たなサービスを始める際には、お客様に新サービスへの期待を持っていただかなければ、いくら良いサービスであっても、話しすら聞いてもらえません。「過小な事前期待を妥当な事前期待に膨らませる」ことを通して、「少し話を聞いてみたい」「ちょっと使ってみたい」と思っていただく必要があるのです。


事前期待のマネジメントが成功のカギ

このように事前期待のマネジメントの主な方向は、過大や過小な事前期待を「妥当」な事前期待にマネジメントするものが多いです。しかし他にも、マーケットで一人勝ちを目指して、事前期待をあえてどんどん膨らませる企業もあります。また、期待されても応えられないことに対しては、寝た子は起こさないように過小な事前期待をそっとしておくということもあります。

こうして見てみると、事前期待のマネジメントには様々な方向があり、大変有効な考え方だとご理解いただけたのではと思います。

サービスの第一歩は、お客様の事前期待を掴むことです。そして事前期待に応えて、お客様に繰返し満足していただくことが大切です。ただし、事前期待は時間とともに膨らんでしまいます。そこで「事前期待のマネジメント」という概念を理解し、実践することが、お客様と長く良好な関係を築き、サービスを成功に導くカギになるのです。

 

--------------------------------------------------------------------------------

<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。
大手製造業で商品開発に従事し、同時に事業開発プロジェクトリーダーを務める。その後、平均62歳、150名のシニアコンサルタントが集うワクコンサルティング(株)の副社長として事業運営に携わると共に、サービスサイエンスチームリーダーを務める。現在は独立して、サービスサイエンスの考え方を活かして、サービス改革やCS向上を支援している。

 ▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
 http://www.service-kaikaku.jp/