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【連載】CS向上を科学する

2022年1月7日

【CS向上を科学する:第101回】価値ある事前期待の見つけ方~サービスの付加価値を格段に高めるサービス設計の原点~

 


 

松井サービスコンサルティング  
代表/
サービス改革コンサルタント  
松井 拓己  

 

 

当コラムでは、サービスの本質論に始まり、サービス改革の取り組み方や成功事例、サービス領域の動向に触れてきました。101回目である今回からは、これまでのロジックの上に立って、より実践的な方法論や、読者の皆さまからの質問に回答する形で、実務に活かして頂くためのノウハウをご紹介していきたいと思います。

今回は、「価値ある事前期待の見つけ方」です。

サービスの定義から、サービスの価値やサービスの姿は、「どんな事前期待に応えるのか」でガラリと変わるため、「事前期待の的」を見定めることがサービス改革において極めて重要だと、当コラムでは度々取り上げてきました。
(詳しくはこちら:第7回 サービスの本質に迫る、サービスの定義)

しかし、いざ事前期待の的を検討してみると、なかなか案が出なかったり、無難な議論から脱却できなかったりと、苦戦する企業が少なくありません。そこで今回は、いかにしてサービスの価値を格段に高められるような“価値ある事前期待”を見出したらよいのか、その着眼点を紹介したいと思います。

価値ある事前期待のキーワード

価値ある事前期待への着眼点を、図のように分類して整理すると、さらに理解を深めることができます。縦軸は、お客様にとってその事前期待が顕在化しているのか、潜在的なものなのか。横軸は、サービス提供者にとって顕在化している事前期待かどうかという観点で分類しています。

まず図の左上は、顕在化している事前期待の中で、現在「満たされていない事前期待」です。たとえば第1回日本サービス大賞を受賞したフローレンスの訪問型病児保育サービスがあります。一般的な保育所には、体温37・5℃を超える子どもは預けることができません。この「37・5℃の壁」に苦しむ共働き家族を救うための日本初の訪問型の病児保育サービスで、当日朝8時までの予約に100%保育者を派遣できるしくみを構築しています。このように、状況で変化する事前期待には100%応えることは難しいために「満たされていない事前期待」が多く存在します。こういった「顕在化しているが満たされない事前期待」に応えることで、(潜在的な事前期待に応えなくても)価値あるサービスを生み出すこともできるのです。

一方で図の右下は、お客様とサービス提供者の両者にとって潜在的な事前期待である「思いがけない事前期待」です。中でも、“人生観や価値観に触れる事前期待”は、BtoCサービスに限らず、BtoBサービスにおいても、クライアントのビジネスパートナーとして選ばれ続けるために重要な事前期待であると言えます。こういった事前期待は、サービス提供者がお客様と双方向にやり取りをしながら、潜在的に期待していることを引き出したり、気付きを促すことで、顕在化させていく「事前期待探索型」のサービスプロセスを設計することが重要になります。
【参考事例】第1回日本サービス大賞受賞:フォレストコーポレーション (事例解説は当コラム第35回へ)

続いて図の右上、顧客にとっては顕在化している一方で、サービス提供者にはそれが見えておらず潜在的な事前期待になっています。その代表例が「諦めている事前期待」です。顧客には、「ここまではさすがに期待しすぎだよね」と、諦めている事前期待があるものです。

たとえば、第1回日本サービス大賞を受賞したオイシックスの献立キットのお届けサービスでは「働く女性の料理の手抜きへの罪悪感」に注目してサービスを設計しています。「忙しいので手間を省きたい」という事前期待ではなく、「忙しいがゆえに家族に手抜き料理を出してしまっている」という罪悪感を軽減できることで、このサービスは共働き家族を中心に高い評価を得ています。

この諦めていた事前期待は、働く女性に限らず存在します。シニアの顧客にとって、体力の衰えとともに諦めてしまっている事前期待はないでしょうか。若者の顧客はどうでしょう。都会の顧客は、地方の顧客は……、何か諦めてしまっている事前期待はないでしょうか。おそらくさまざまな業界のサービスにおいて、思い当たるところがあるのではと思います。顧客が諦めている事前期待に対して、「諦めなくてもいいですよ。私たちがそれにしっかりお応えします」と言えるサービスは、顧客にとって「実はそんなサービスがあったらいいなと思っていたんです!」と、新たな価値のあるサービスになるはずです。
【参考事例】第1回日本サービス大賞受賞:オイシックス (事例解説は当コラム第37回へ)

最後は、顧客にとっては「潜在的」であっても、プロであるサービス提供者にとっては成功事例として既に顕在化している「よくある潜在的な事前期待」です(図の左下)。たとえば、法人向けサービスで、クライアント企業の担当者が上司に報告するための相談にまで乗ったら、「こんなことまで対応してくれるなんて」と感激してもらえるうえに、その上司もサービスの価値を実感できる報告を受けられるので、リピートオーダーがいただけるという具合です。「社内への報告まで支援してほしい」というのは、サービス提供者としては、顧客がよく抱いている事前期待だということを、経験的に知っているのです。こういった事前期待は、ベテランやセンスのいいスタッフが経験知としてとらえていることが多いので、組織内で成功事例を共有して、「事前期待」の観点から分析してみると見つけることができます。

この4象限で紹介したキーワードをヒントにして、自社サービスにおける事前期待の的として見定めるべき、価値ある事前期待を探してみてください。

 

※参考書籍はこちら

価値共創のサービスイノベーション実践論

日本の優れたサービス 1、2





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<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。
著書:価値共創のサービスイノベーション実践論(生産性出版)、日本の優れたサービス2~6つの壁を乗り越える変革力~(生産性出版) ほか
 
▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
http://www.service-kaikaku.jp/