連載コラム

  • 日本サービス大賞
  • 大人の武者修行バナー

    JCSI 日本版顧客満足度指数

    提言・宣言

    提言・宣言

    入会案内

    ハイ・サービス日本300選

     

  • リンク
  • SES Service Evaluation System:サービス評価診断システム

     開発・運営:(株)インテージ

【連載】CS向上を科学する

2021年6月1日

【CS向上を科学する:第95回】人口減少社会を生き抜くサービスの組み立て方~株式会社ハクブン(第3回日本サービス大賞 地方創生大臣賞)~

 


 

松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己

 

 

人口減少・高齢化・過疎化など、これから日本において深刻化する課題に対して、サービス事業はどのように対応すべきなのでしょうか。人口減少社会は、顧客の減少による競争環境の激化と、生産年齢人口の減少に伴う人手不足の深刻化が同時に起こることを意味します。その最前線である過疎地に積極的に出店し、事業成長を遂げている理美容サービスがあります。それが今回注目する株式会社ハクブンです。人口減少社会の最前線である過疎地において持続可能なサービスモデルをひも解くことで、顧客と従業員、事業と地域が犠牲にならない、これからの時代のサービスモデルのヒントが浮かび上がります。
 

株式会社ハクブン
過疎地や離島でもシルバーの人生を豊かに 安近短の理美容室「IWASAKI」

受賞事例の詳細はこちら

IWASAKIの最大の特徴は、1000店近い直営店の出店先の64%が、地方や過疎地、離島といった都市部以外の地域で積極的に展開されている点です。過疎地や離島に立地可能な理美容店は限られ、理美容難民問題が生じています。IWASAKIは、こういった地域であっても持続可能なサービスモデルを構築しているのです。
IWASAKIのサービスモデルの本質を理解するには、前提として、働き手である理美容師に着目する必要があります。理美容業界では今、理美容師の定着率の低さが問題になっています。その原因のひとつは、ライフステージの変化に伴う転居や出産、子育てや親の介護、自身の高齢化などにより、理美容師として「フルタイム」で働くことが困難となり離職してしまうというものです。ライフステージの変化によって時間に制約がある中であっても、どの地域でも理美容師として無理なく働き続けたい。この理美容師の仕事に対する事前期待に、顧客である理美容難民の事前期待を掛け合わせている点が、IWASAKIの最大の特徴です。目指すは、美容師が子育て中や家族の介護中で働き方に制限があっても仕事が継続できることと、過疎地の顧客が価値を実感して高頻度にリピートしてもらえることの両立です。
 

フルサービスではなく、事前期待のクロスポイントに特化する

たとえばIWASAKIでは、顧客が自宅でできることは省くというノンフリルサービスの発想で、「カットのみ」、「カラーのみ」などアラカルト型のメニューを構成しました。一般的な理美容店はセットメニューによるフルサービスで、利用に2時間近くかかる場合もあり、価格帯は1万円前後と高額で、過疎地の高齢な顧客の負担になっていました。一方でアラカルトメニューなら、過疎地の恒例の顧客であっても、必要なサービスを短時間かつ、お手頃価格で気軽に利用できます。加えて理美容師にとっても、短時間で顧客の対応ができるため、時間的に制約のある中でも仕事を続けられるようになったのです。まさに、顧客と理美容師の双方の事前期待のクロスポイントを見出してサービスを組み直したといえます。
他にも、時間帯によって優遇を受けられるタイムサービスを打ち出しています。これは単なる集客キャンペーンではなく、顧客の来店時間に対する事前期待をマネジメントする目的があります。時間制約のある理美容師が対応可能な時間や、お店にスタッフが多い時間に、顧客の来店時間帯を合わせることで、極めて生産性の高い店舗運営を実現します。これにより、理美容師が子育てや介護の時間を大切にしながら、その合間の希望する時間で就労することを可能にしたのです。
もちろん、このサービスを実現するために、ハード面では、コンパクトで少人数稼働を可能とする店舗仕様と負担の少ない器具やオペレーション手法を開発しています。ソフト面でも、たった9分間のカットでも高品質な仕上がりが可能なカット技術を開発しています。
このように、顧客と理美容師の双方の事前期待が交差するポイントを見出して、その事前期待に絞ってサービスを構成したり、事前期待をマネジメントすることで、フルサービスでなくても価値が実感でききるサービスを実現しています。そして、低価格であっても顧客数を伸ばせば事業の収益がしっかり確保できるサービスモデルが構築されており、顧客の事前期待に応えて来店サイクルを高めることと、評判や紹介による顧客数の拡大によって、IWASAKIの事業は成長を遂げています。

その結果、従業員の平均年収は一般美容師の平均年収に比べて約100万円向上し、定着率は20%程度と言われる理美容業界において、3年目定着率88%と高水準を実現しました。2018年には「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」において大企業部門最優秀賞厚生労働大臣賞を受賞しています。まさに、顧客、従業員、事業、そして地域のどれも犠牲にしないこれからのサービス事業のひとつの形であるといえます。

 
※参考書籍はこちら
日本の優れたサービス2~6つの壁を乗り越える変革力~
好評発売中!

日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~


--------------------------------------------------------------------------------

<筆者プロフィール>
  


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。
著書:日本の優れたサービス2~6つの壁を乗り越える変革力~(生産性出版)
         https://www.amazon.co.jp/dp/4820120905/

▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
http://www.service-kaikaku.jp/