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逆境でも革新するための3つの手法。92の先端事例から紐解く、日本のサービスイノベーションの“SDGs”

逆境でも革新するための3つの手法。92の先端事例から紐解く、日本のサービスイノベーションの“SDGs”

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多種多様なサービスを共通の尺度で評価し、“きらり”と光る革新的で優れたサービスを表彰する「日本サービス大賞」。その第4回日本サービス大賞の受賞事例30件も含めた、合計92件の最前線事例を選定した「日本のサービスイノベーション2022」が、今年の3月にリリースされた。

選定されているのは、新型コロナ危機による厳しい環境下においても、怯むことなくサービスの開発・刷新に挑み続けるイノベーターたちの実践例。大企業はもとより、スタートアップやベンチャーによる画期的なサービスイノベーション事例も数多く取り上げられている。

そこで今回、「日本のサービスイノベーション2022」の公表に際し、日本サービス大賞委員会の委員長であり、選定者である公益財団法人 日本生産性本部 サービス産業生産性協議会(SPRING)の幹事を務める村上輝康氏に、実施の経緯や選定基準、選定を進める中で見えてきた今後のサービスイノベーションに求められる手法について伺った。

革新的で優れたサービスイノベーション事例を多くの人に届けたい

――2023年3月、最先端のサービスイノベーション事例を「日本のサービスイノベーション2022」として選定しました。選定に至った経緯からお聞きしたいです。

村上氏: 日本サービス大賞の審査を担当するなかで、受賞企業以外にもおびただしい数の革新的で優れたサービスイノベーションの事例に出会いました。それらをより多くの人に知ってもらいたいと切実に思ったのが始まりです。

直近の「第4回 日本サービス大賞」では、749件ものご応募をいただきました。その資料は膨大で約3,500ページありましたが、この賞は丁寧な審査を特徴としていますから、委員長である私と選考専門委員会の委員長で、正月返上で全件読むことにしたのです。何度も読んでいると、個々のサービスに愛着が芽生えてきます。もっとたくさんの人たちに、これらの事例を知ってもらいたいと考えるようになり、この想いが出発点となりました。

私たちサービス産業生産性協議会(SPRING)は、日本サービス大賞以外にも、JCSI(日本版顧客満足度指数)調査なども行っています。こうした活動を通じて出会った事例も含めて、92件の優れた事例を厳選して「日本のサービスイノベーション2022」を公表することにしました。

▲サービス産業生産性協議会(SPRING)幹事/産業戦略研究所代表 村上輝康 氏

1968年4月、株式会社野村総合研究所(NRI)入社。研究員、コンサルタント、現場の管理者、経営者として40年間勤務。2002年より同所、理事長。2008年より株式会社ベネッセホールディングス社外取締役、2012年より産業戦略研究所代表、2013年より株式会社NTTドコモ社外取締役など、数々の組織で経営者、委員会委員、顧問等を経験。現在は、日本サービス大賞委員会 委員長として、科学的なアプローチによるサービスイノベーションの推進・定着に尽力。情報学博士(京都大学)

――3,500ページにも及ぶ膨大な応募資料を読んで、どのような感想をお持ちになったのでしょうか。

村上氏: 一言でいうと、感動しましたね。というのも、日本経済にとって2022年は非常に特殊な年でした。新型コロナ危機が続いていましたし、ウクライナ戦争が起こってエネルギー価格が高騰。マクロ経済は悲惨な状況でした。そんな厳しい環境であるにも関わらず、後ろ向きにならずに、これだけ多くのサービスイノベーションが実践されている。そのことに心を打たれたのです。大企業は自己革新に挑んでいますし、スタートアップやベンチャーは、スクラッチで新たなサービスを立ち上げようとしている。日本の企業の可能性を強く感じました。

「価値共創のサービスモデル」をもとに、科学的かつ客観的に92の事例を選定

――日本サービス大賞の審査や、「日本のサービスイノベーション2022」の選定において、重視したポイントをお伺いしたいです。

村上氏: 大前提として、できるだけ科学的かつ客観的で公平な審査や選定を心がけました。というのも私自身、これまでさまざまな審査に参加してきましたが、かねてから、「個人の好みに左右されない、客観的で科学的な審査ができないだろうか」と思っていたのです。

そこで今回は、サービス学の分野で使われているフレームワークである「価値共創のサービスモデル」を用いて審査することに。これは、ニコニコ図とも呼ばれているものですが、選考メンバー全員で共有し、このフレームワークに基づいて審査を行うようにしました。

――具体的にどのような審査基準を設定したのですか。

村上氏: ニコニコ図は4つのセグメントに分かれており、その4つが審査基準となっています。それぞれについて簡単にご紹介すると、第1が「顧客からみたサービスの良さ【顧客接点】」。第2が「サービスをつくりとどけるしくみの良さ【事業組織】」、第3が「事業の成果の良さ(事業の継続性・発展性)【企業経営】」、そして第4がより広い枠組みでの「社会の発展への寄与【社会経済システム】」です。これら4つの側面から評価しています。

より詳しく説明すると、4つの側面をさらに7つのカテゴリー(T1~T7)に分け、各事例がフレームワークのなかのどの部分で、どのように優れているのかを、選考メンバー間で共有したうえで、その優劣を議論するようにしました。今回選定した「日本のサービスイノベーション2022」では、各事例紹介の中に「サービスイノベーションの観点から」という項目を設け、そのサービスが7つのカテゴリーのなかのどの部分で、どのように優れているのかを書き込んでいます。

――常にニコニコ図を判断の拠り所とすることで、個々のバイアスがかからないようにされているのですね。「日本のサービスイノベーション2022」には、第4回 日本サービス大賞を受賞した30件を含めた92件が選定されています。第4回 日本サービス大賞は、第3回と比較してどのような特徴がありましたか。

村上氏: 第1回から第3回までは、従業員1,000人以上の大企業(青色)の受賞が4割を占めましたが、第4回は3割に減っています。一方で、従業員99人以下の小規模企業(赤枠)が増加し、第4回では5割近くまで増えました。いわゆるベンチャーやスタートアップと呼ばれる企業、あるいは小規模企業にあたる企業の受賞が増えたことが、今回の大きな特色として挙げられます。

会社設立後の年数からみても、設立9年以内(青枠)の新しい会社が増えています。第3回は2割でしたが、第4回では4割を超えているので倍以上になっています。

また、「日本サービス大賞」の最高賞は内閣総理大臣賞ですが、第1回から第3回までは誰もが知るような大企業が受賞してきました。しかし第4回は、株式会社エアークローゼットというスタートアップが受賞しています。スタートアップの受賞は、第4回が初めてです。

――トップにスタートアップを選ぶことは、勇気のいる決断だったのではないでしょうか。

村上氏: そのとおりで、誰もが優良企業だと認める大企業を選ぶことは、そう難しいことではありません。しかし、知名度の低いスタートアップやベンチャーを、「日本で最高のサービスイノベーションを実践している会社です」と表彰することは、私たちにとっても大きなコミットメントです。

日本サービス大賞の審査にはさまざまな立場の経営者、学者、現場の実践者が関与しますし、最終的には内閣総理大臣に認めてもらわねばなりません。そうしたなかでこの合意を得られたことは、日本サービス大賞にとっても、大きな意義があったと感じています。

これからの時代に求められる、サービスイノベーションの3つの手法

――「日本のサービスイノベーション2022」における92件の選出事例をふまえ、これからの時代のサービスイノベーションに求められる手法は、どのようなものだとお考えですか。

村上氏: これからのサービスイノベーションに求められる手法は、3つあると思っています。まず第1が「ソーシャル(S)」を切り口にすることです。今回の選定でもっとも強く感じたのが、ソーシャルな課題を特定して、それを解決しようとするサービスが多かったこと。新型コロナという社会課題への対応だけではなく、その先にある地球環境問題や医療・福祉・健康問題など、逆境だからこそ生ずる多様な社会的課題に標的を定め、企業活動を通じてその解決を図ろうとする事例が多くありました。

具体例を挙げると、エアークローゼットは働く女性をターゲットに月額制のファッションレンタルサービスを展開しています。新しい服に出会うというワクワク感を演出しているサービスで、サービスイノベーションとしても素晴らしいのですが、同時にアパレル大量廃棄という社会課題の解決にも並々ならぬ意欲をもっているのです。

また、紙オムツ定額サブスクのBABY JOBですが、代表者の方は「紙オムツのサブスクの会社だと言われるのは本意ではない」とおっしゃいます。「人生において楽しいはずの子育てが、今はそうなっていない。それを変えていきたいのだ」と。その手段として、最初にはじめたのが紙オムツ定額サブスクなのだそうです。子育てを楽しくするのに貢献するサービスの拡充を進めておられます。

――「アパレルの大量廃棄」や「子育ての負担」という社会課題の解決を図ろうとしているわけですね。

村上氏: そうです。いずれも、社会的な課題の解決に、企業活動を通じて積極的に社会システムに働きかけることによって貢献しようとする、明快なパーパスを持ったサービスイノベーションです。私はこのカテゴリーを「社会システム型サービスイノベーション」と呼んでいます。

このように社会問題に着目し、それをシャープに切り取り、その解決に積極的に貢献しようとすることが、日本のサービスイノベーションを進めるうえで、非常に重要な手法になってきています。従来のように、顧客満足度や企業の生産性向上だけではないのです。このカテゴリーに分類される事例が、大賞受賞30事例の6割を占めています。

――なるほど。2つ目の手法についても教えてください。

村上氏: 2つ目は「デジタル化(D)」です。サービスを効果的につくり届けるために、AIやIoT、メタバースといったデジタル技術を有効に活用する事例が非常に多く選ばれています。大賞受賞30事例の9割がデジタル技術を使っているので、デジタル技術の利活用はサービスイノベーションにとって不可欠な手法となりつつあると感じます。

具体例を挙げると、位置情報をとらえて人流のビッグデータをつくろうとしているunerryという会社があります。私自身、NTTドコモで社外取締役を務めていましたが、位置情報といえば、携帯電話とGPSの組み合わせのなかで得るものという通念がありました。これに対してunerryは、コンビニやショッピングモールといった屋内に設置されているビーコンの情報を用いることで、人流のビッグデータをとらえようとしています。

同社の素晴らしい点は、日本国内210万ケ所にあるビーコンをすべてつなごうと構想し、実際に持ち主に呼びかけて実現した点です。これにより、たとえば買い物客がお店の飲料売り場にいるのか、野菜売り場にいるのかが把握できるようになります。しかも、個人情報保護法にも準拠し、さらには生み出した膨大な人流データの活用方法も真剣に考えておられます。このため、データサイエンティストチームと、カスタマーサクセスチームが、顧客と一緒にデータの活用方法を考える体制を構築しているのです。

また、「日本のサービスイノベーション2022」に選定されたCureAppは「治療の空白問題」をデジタル技術で解決するために、禁煙アプリの開発に取り組んでいます。従来の治療では、患者は通院後2~3日は医師から指示されたとおりに行動するのですが、すぐに元の状態に戻ってしまうという課題がありました。そこで、CureAppはスマホのアプリを活用し、アプリ上で治療の空白期間を補う仕組みを提供しています。COチェッカーというIoT機器も自社開発し、患者自身で状態を可視化できるようにしています。さらには、医師向けにもアプリを提供し、「そろそろCOチェッカーをやってみましょうか」というように、通院時以外にも医師が患者にアドバイスできるようになっているのです。

――デジタル技術を上手く活用して、サービスの開発や強化につなげているのですね。

村上氏: はい。ここでひとつ気づいたことがあります。いわゆるGAFA型だと、デジタルプラットフォームをつくり、「さあ、使ってください」と提供して終わりですよね。しかし、先ほどご紹介した例は違います。システムと顧客との間に、ヒトが関与しているのです。unerryだとカスタマーサクセス、CureAppだと医師が介在し、価値共創を強化する役割を果たしています。

ヒトの関与を排して効率を上げるGAFA型でなく、ヒトが絡んで価値共創を強化する「日本型デジタルプラットフォーム」が生まれてきているのではないかと考えています。エアークローゼットも、パーソナルスタイリストが服のアドバイスを行います。ここを担っているのはAIではなくヒトなのです。

――たしかに、すべてをデジタルに委ねるのではなく、ヒトの介在で温かみのあるサービスを提供している点は、日本ならではかもしれません。3つ目の手法は何でしょうか。

村上氏: 3つ目は「グローバル化志向(G)」です。新型コロナ危機で海外への渡航は困難になったので、企業のグローバル活動は非常に厳しい状況になりました。しかし、そうした環境下でも諦めないでグローバル化という手法で市場拡大に挑戦する企業が目立ちました。事業立ち上げの初期段階から世界での挑戦を目指すスタートアップも多く存在しました。大賞受賞30事例の5割がこれに該当します。

たとえば、越境EC支援のジグザグは、日本国内でECサイトを持っていれば、JavaScriptの一行をつけ加えるだけで、そのサイトが一瞬でグローバルサイトになるという発明をしています。それだけではなく、125カ国もの法令に準拠した決済や配送ができるサービス設計になっています。このサービスは今、大企業も含め1,300社以上で使われるサービスへと成長しているそうです。

また、「日本のサービスイノベーション2022」に選定されたサイエンスアーツは、デスクレスワーカーを対象にBuddycomというコミュニケーションツールを提供しています。1,000人に一斉同報ができるという優れたツールなのですが、このツールもグローバル化と関連しています。というのも、DeepLという翻訳ツールを活用しており、たとえば本社から日本語で発信をすると各国語に自動翻訳されて伝達されるのです。アプリの使われる拠点が世界へと広がれば広がるほど、サービスのグローバル化が進むという優れた形です。

――一口にグローバル化といっても、その形態は多様なのですね。

村上氏: はい、従来グローバル化といえば、輸出か海外直接投資かの2つしかありませんでした。しかし、先ほど申し上げたように、グローバル化という手法そのものにも、多様なサービスイノベーションが起こっています。このような、「ソーシャル(S)」「デジタル化(D)」「グローバル化志向(G)」のサービスの3つの頭文字をとって、「サービスイノベーションのSDGs」と私は呼んでいます。

国連の提唱するSDGsも重要ですが、サービスイノベーションの“SDGs”も非常に大事で、この3つがこれからの時代のサービスイノベーションに求められる手法なのではないかと思います。しかも、単なるSとDとGであるだけでなく、一味違う日本的な深みのあるSDGsなのです。

――最後に、今後の展望についてお聞かせください。

村上氏: 「日本のサービスイノベーション2022」は選定して終わりではなく、ここからが始まりです。これら92件の素晴らしい事例を、産業界の皆さんにも広く知っていただき、自社のなかでもサービスイノベーションを起こしてもらいたいと考えています。そのために、セミナーや講演の実施や広報といった、これらの事例を知っていただく活動にも注力していく予定です。そして、サービスイノベーションの全面展開につなげていこうと思います。

▼セミナー等の情報は以下をご覧ください

https://www.service-js.jp/modules/contents/?ACTION=content&content_id=1831

▼「日本のサービスイノベーション2022」について

https://www.service-js.jp/modules/contents/?ACTION=content&content_id=1807

▼サービス産業生産性協議会(SPRING) HP

https://www.service-js.jp/

取材後記

日本サービス大賞の審査は、2段階の書類選考に加えてオンライン面談と現地調査の合計4段階の選考プロセスがあるという。その丁寧な審査を経て選出された30事例も含めた合計92の事例を選定した「日本のサービスイノベーション2022」は、自社サービスの構築・刷新を検討するうえで、大きなヒントになるのではないだろうか。セミナーなども予定されているそうなので、「サービスイノベーションを実践したい」という方は、ぜひ参加してみることをおすすめする。

(編集:眞田幸剛、取材・文:林和歌子)

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2021年で4度目の開催となる、「日本サービス大賞」。内閣総理大臣賞をはじめ、過去に79ものサービスが表彰され、人を笑顔に、地域を元気に、そして社会を豊かにしてきた。同アワードが評価する、ポストコロナの社会を切り拓く 革新的な優れたサービスに迫る。