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【連載】CS向上を科学する

2018年10月9日

【CS向上を科学する:第65回】事例に学ぶ優れたサービスのポイント:陣屋 旅館・ホテル経営をITの力で改革する「陣屋コネクト」 (1/2)

 




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己


 

先日、長野県が主催する信州のサービス産業のステージアップを目指した講演会で、基調講演の場を頂きました。長年「日本一のおもてなし県」を目指して、地域のサービス産業のレベルアップを推進してきた長野県。近年では、世界中から“信州”を目指して観光客が集まるようになってきました。そこで、マインドを高めてお客様に喜んでいただくだけでなく、それをサービス事業の成長に結び付けていきたいというものです。

そこで偶然にも、事例講演が第2回日本サービス大賞の総務大臣賞を受賞した陣屋の女将の宮崎さんという組み合わせで、ご一緒させて頂きました。陣屋といえば、サービスのIT活用の代表事例ですが、私は別の部分がとても興味深いと感じました。それは、長年同じサービスを続けてきたサービス事業を急激に発展、または変化させる方法です。

観光地や観光サービス企業からよく相談をいただくのは、「お客様が増えて忙しくなっているのに、事業が成長していない。収益が向上していない。」という悩みです。自己犠牲を前提としたサービス事業から抜け出さなければ、顧客が増えても、事業が成長しません。しかし、自己犠牲や価格競争を抜け出して事業成長を加速したいと思っても、今までのやり方や考え方を変えられなくて苦しんでいる企業は、観光業界以外にもたくさんあります。

そこで今回は、陣屋が倒産の危機をどうやって乗り越えてきたのか、その経緯から、サービスを発展させる方法をひも解いてみたいと思います。

 

第2回日本サービス大賞 総務大臣賞
旅館・ホテル経営をITの力で改革する「陣屋コネクト」
(陣屋)

 出典:第2回日本サービス大賞
 

陣屋はサービス産業でのIT活用のお手本

第2回日本サービス大賞では、受賞理由にこうあります。

【サービスの内容と受賞理由】
倒産の危機を、自社開発のクラウド型旅館管理システム「陣屋コネクト」で打開。旅館業務に必要な機能を網羅し、業務効率化や情報共有、経営情報の一元管理を可能とした。勘と経験に依存しがちな旅館サービスにおいて、ICTの有効活用により、サービスの質と労働生産性の向上を実現。陣屋コネクトは300超の他社施設にも提供。各旅館の個性を保ちながら経営改革を支援し、地域観光の価値向上と雇用の創出に貢献している。旅館同士のリソースの融通にも取り組む。


サービス業において、ITを活用することでサービスの生産性を高めようという取り組みは盛んにおこなわれています。しかしながら実際には、闇雲に技術を導入しても、思ったような成果が出なかったり、逆にサービスの価値を下げることすらあります。

対して陣屋の場合、ITを活用することで、サービス事業の生産性を高めることに成功しました。

たとえば、旅館はサービス業のはずなのに、1日の8割がバックオフィス業務で追い立てられ、お客様にちゃんと向き合えていなかったことに違和感を覚えた女将は、ITを活用して、個人に紐づいた情報を皆で共有できるようにしました。これにより、情報伝達の手間やミス、情報格差がなくなり、旅館全体でお客様に向かうための業務と気持ちの余裕を作り出したのです。さらには、顧客情報を即座に共有できることで、顧客個別の期待や状況の変化に組織的に対応できるようになりました。特に陣屋では「2回目のお客様にまた来たいと思っていただくこと」を目標にサービスの価値を高め、安売りしなくても何度も来てくれる顧客を増やすことに成功したのです。

サービス業は忙しさとの戦いでもあります。忙しさに負けて本業に専念できないという悩みを乗り越え、顧客に提供する価値を高められるようなITの活用ができている点は、大変素晴らしいと思います。さらにそれだけでなく、そのしくみを他社にも提供することで、同じように悩む業界内の旅館の手助けをして、旅館業を花形業界にしていこうとまでされており、これからの展開に目が離せません。


経営危機を乗り越える経緯は、もっと興味深い

陣屋の取り組みから学ぶべきところは、ITの活用方法だけではありません。サービス改革は、変化への抵抗感との戦いでもあります。改革は進めたくても、これまでのやり方や考え方を変えられなくて、苦戦している企業はたくさんあります。そこで、旅館という伝統的なサービス業が、どのようにサービスの考え方ややり方を変え、発展や変化を推進したのか。次回は、この変化を生むための工夫に着目してみたいと思います。

 

※参考書籍はこちら
日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~

 

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<筆者プロフィール>
     

 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。
著書:日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~(生産性出版)
         https://www.amazon.co.jp/dp/4820120654

▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
   http://www.service-kaikaku.jp/