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【連載】CS向上を科学する

2016年9月13日

【CS向上を科学する:第33回】事例に学ぶ優れたサービスのポイント:「キッザニア」その2




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己


前回から、第1回日本サービス大賞の優秀賞(SPRING賞)を受賞したキッザニアのサービスに注目しています。前回は「エデュテインメント」というコンセプトを実現するためのキッザニアのサービスの仕立て方について触れました。今回は、コンセプトを実現するためのサービスやスタッフの評価の仕方について着目してみたいと思います。

キッザニア
出典:第1回日本サービス大賞

徹底的に「得点型」で評価する

キッザニアでもお客様アンケートを集めています。特徴的なのは、その評価指標です。お客様満足の項目の最高スコアは「大満足」ではなく、「感動した」としています。キッザニアでは、この最高評価の「感動した」と答えてくださるお客様をどれだけ増やせるかに照準を絞って、熱心にサービスを磨き上げているのです。

これは極めて重要な観点です。

他の企業でも顧客満足度調査は行っています。長年CS活動を進めてきて、顧客満足度の数値が向上してきている企業も多いことと思います。しかし最近、こんな相談が増えています。「顧客満足度が高まるとリピートが増えると思っていたのに、CSが向上してもリピートが増えなくて困っています」と。実際にそんな企業の顧客満足度の評価の仕方はというと、「平均値」で評価したり、「やや満足」と「大満足」を合算して評価していることが多いものです。

これの何が問題なのでしょうか。

顧客満足度とリピートの相関関係を調べてみると、実はリピートに繋がる満足度は「大満足」のみだと分かっています。「やや満足」の実に97%がリピートしない可能性があると答えています。つまり、リピートに繋がる「大満足」と、リピートに繋がらない「やや満足」とを合算したり、満足度を平均値化して、その数値が向上したとしても、リピートが増えるとは限らないのです。つまり、着目すべきは最高評価の「大満足」なのです。
*この点については当連載の第4回「リピートに繋がるCSとは」でも触れていますので、詳細はそちらを参照してください。

そして今回取り上げているキッザニアでは「大満足」のさらに上の「感動した」という評価に着目しています。これは何を意味するのでしょうか。

先ほど、リピートに繋がる満足度は「大満足」のみだとお伝えしましたが、大満足をしたお客様の理由コメントを分析してみると、大きく2種類の理由があることが分かりました。一方は、「このコストパフォーマンスなら納得です」というような論理的な理由の大満足です。もう一方は「すごく助かりました」「心が温まりました」という感情的な理由の大満足です。大満足をこの論理的大満足と感情的大満足に分けて分析してみると、論理的大満足のお客様は、「やや満足」のお客様よりもリピートする可能性が低いということが分かりました。つまり、本当の意味でリピートしてくれるのは、感情的大満足をしたお客様だけなのです。

CSとリピートの関係性を少しロジカルに理解してみると、キッザニアで最高評価を「感動した」として、ここに照準を絞ってサービスを磨いている価値がよくわかります。CS向上の取り組みを徹底的に「得点型」に振り切ることが、来場者の70%がリピーターで、残る30%の新規顧客も多くが利用者からの紹介やクチコミがきっかけで増えているキッザニアのサービスを支えているのです。

社内評価も得点型を徹底する

キッザニアのサービスを支えるのは、スーパーバイザーと呼ばれるサービススタッフです。スタッフが育たなければ、いくら綺麗なサービスを設計しても、絵に描いた餅です。サービスビジネスにおいて、人材の育成や評価は欠かせません。キッザニアでは、このスタッフの育成も得点型を重視しています。教育のしくみも日本で独自に考えられており、7段階のランク評価と教育体系を整備しています。この中で、最高ランクのスタッフの中から、全スタッフのロールモデルとなる「プレミアスーパーバイザー」を半年に1回選出しているのです。このプレミアスーパーバイザーは、サービスの現場だけでなく、会社の顔としての対外的な対応まで担います。このように、スタッフの中からスターを生み出すことで、自分もいつかはあんな風になりたいという目標を持てるようにしています。なお、このロールモデルスタッフになるためには、お手本としての行動ができるだけでなく、他者を育成できることも重視されます。そうすることで、スタッフ同士が支え合い、成長し合えるように工夫しているのです。

ついつい失点重視型になっていませんか

このように、キッザニアのサービスから、優れたサービスのポイントを紐解いてみると、CS向上の方向性が明らかになりました。ついついサービスのマネジメントの立場に立つと、「いかに失点をなくすか」の方向にばかり着目してしまいます。お客様からの不満やクレームをいかに減らせるか。サービススタッフのミスや無礼をいかに減らせるか。もちろん失点をなくすことは大切ですが、失点しないサービスというだけでお客様に選ばれる時代ではなくなりました。これからは、「得点をいかに増やせるか」という方向で、サービスを磨き上げた企業が選ばれる。そんな時代になったのです。
 

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<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。
大手製造業で商品開発に従事し、同時に事業開発プロジェクトリーダーを務める。その後、平均62歳、150名のシニアコンサルタントが集うワクコンサルティング(株)の副社長として事業運営に携わると共に、サービスサイエンスチームリーダーを務める。現在は独立して、サービスサイエンスの考え方を活かして、サービス改革やCS向上を支援している。

 ▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
 http://www.service-kaikaku.jp/