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【連載】CS向上を科学する

2016年8月25日

【CS向上を科学する:第32回】事例に学ぶ優れたサービスのポイント:「キッザニア」その1




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己


第1回 日本サービス大賞」の受賞サービスを、これまでに触れてきたサービスやCSの理論を活かしてひも解いてみる「事例に学ぶ優れたポイント」シリーズ今回の3事例目は、最近注目の「体験型サービス」を取り上げてみたいと思います。

こどもの職業・社会体験施設「キッザニア」(KCJ GROUP 株式会社)
第1回日本サービス大賞 優秀賞(SPRING賞)受賞

キッザニア
キッザニアで真剣な表情で職業体験をするこどもたち
出典:第1回日本サービス大賞

第1回日本サービス大賞の全31件の中で今回取り上げるのは優秀賞(SPRING賞)を受賞した「キッザニア」です。キッザニアといえば、こども向けに職業体験を通じて楽しみながら学ぶ「エデュテインメント=学ぶ(エデュケーション)+楽しむ(エンターテインメント)」という体験型サービスを提供しています。この「エデュテインメント」は最近とても注目されていて、キッザニアは日本を代表するエデュテインメントサービスです。キッザニアの受賞理由はこう紹介されています。

ーーーーー
『限りなく本物に近い90種以上のパビリオンで、子供が楽しみながら社会性を学ぶ「エデュテインメント」を体現する職業・社会体験サービス。体験を通じてコミュニケーションや協調性などが身に付くと共に、お金に関する社会システムも学べる。子ども自ら各アトラクションの予約を調整し、社員/職人になりきって職業を学ぶひたむきな姿、達成感・感動を生む演出は、学びのモデルとして優れている。』
ーーーーー

キッザニアは、もともとはメキシコのKZM社が始めたサービスで、日本はその世界展開第一号として、2006年にKCJ GROUP(株)により設立されました。これを聞くと、ただ単に海外で成功したサービスモデルを持ってきただけなのではと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。職業体験によるエデュテインメントというコンセプトはもちろん共通していますが、それを日本で体現するために、ゼロから徹底的に日本流に仕立て上げているのです。もちろん、日本発のサービスもたくさんあります。その結果、年間160万人もの来場があり、その利用者満足度は親・子ともに90%を越えています。来場者の70%がリピーターで、残る30%の新規顧客も多くが利用者からの紹介やクチコミがきっかけで増えていて、まさにサービスの成功モデルと言えます。

こういったレジャー産業のサービス事例は注目されることが多いですが、他の業界ではなかなか何を活かしたら良いのか分からないことが多いものです。そこで今回も、他の業界でも役立ちそうなポイントに絞ってご紹介したいと思います。今回着目するのは、コンセプトを実現するためのサービスの仕立て方と、サービスやスタッフの評価の仕方です。


サービスコンセプトを実現するために「やらないこと」

キッザニアのコンセプトは先ほど触れたとおり「エデュテインメント」であり、体験を通じて楽しみながら学ぶことです。これを実現するために「やっていること」はたくさんあります。その一方で、あえて「やらないこと」がいくつかあるのです。

例えば、キッザニアの施設内には、館内マップの表示をしていません。また、各パビリオンの予約をPCやスマホでするためのシステム化は行っていません。これらは利用者の利便性を考えれば、用意することは悪くないかもしれません。しかし、エデュテインメントのコンセプトに照らし合わせたときに、子供が親に頼らずに、自分で紙の地図を見ながら探したり、人に聞いたり、列に並んで予約をするといった、経験やコミュニケーションこそが価値があると考えているためです。その代わりに、特定のパビリオンに所属せずに利用者に寄り添うことを専任とするデューティーと呼ばれるスタッフを配置していることも特徴的です。エデュテインメントのコンセプトを実現するためには、あえて便利にし過ぎないことで得られる経験やコミュニケーションで価値を発揮するようにサービスを仕立てているのですね。

それでは他業界のサービスではどうでしょうか。コンセプトや理念を実現するためのサービスの仕立てができているでしょうか。利便性や効率を意識するあまり、価値ある顧客接点やコミュニケーションの機会をないがしろにしていないでしょうか。ある企業では、効率を重視するあまり顧客対応スピードばかり気にしてお客様の事前期待に気づくことすらできていませんでした。またある企業では、IT化を進めるあまり、価値ある顧客接点までWEB化してしまおうとしていました。もちろん効率化やIT化は大切ですが、あえてひと手間かけたコミュニケーションや経験からしか生み出せない価値もあります。「サービスはお客様と一緒につくるものである」という極めて重要な特徴があります。価値あるサービスには、お客様とのコミュニケーションが欠かせません。自社サービスを、効率化の観点ではなく、価値向上の観点で見直してみる意味はあると思います。

次回はキッザニアの優れたサービスのポイントの2つ目「サービスやスタッフの評価の仕方」についても触れてみたいと思います。
 

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<筆者プロフィール>
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。
大手製造業で商品開発に従事し、同時に事業開発プロジェクトリーダーを務める。その後、平均62歳、150名のシニアコンサルタントが集うワクコンサルティング(株)の副社長として事業運営に携わると共に、サービスサイエンスチームリーダーを務める。現在は独立して、サービスサイエンスの考え方を活かして、サービス改革やCS向上を支援している。

 ▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
 http://www.service-kaikaku.jp/