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【連載】CS向上を科学する

2017年1月10日

【CS向上を科学する:第38回】 サービスの効率化と価値向上は両立できる ~サービスの生産性向上を科学する~

 




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己


 

 日本のGDPの7割を占めるサービス業において、生産性の向上の必要性が高まっています。もちろん日本のサービスの良さのひとつには、効率ばかりを重視するのではなく、心からお客様に喜んでいただきたいという思いで手間を惜しまず温かいサービスが提供できるところだと思います。しかし、サービスも事業である以上は、かけられる人も時間もお金も限界があります。サービス提供者が自己犠牲を払ってでもお客様に何でもかんでもして差し上げるというのは、サービスの価値向上のあるべき姿とは言い難いのではと思います。かといって、提供者の都合で一方的にサービスの一部をやめることは、お客様の不満や不安に繋がり、お客様を失ってしまうことすらあります。サービス改革に熱心な企業ではよく、生産性向上、価値向上、CS向上、顧客志向といった言葉がテーマに挙がります。しかし実態は、それを実現するために、いったい何から手を付けたら良いか分からなくて困っている企業が多いものです。お客様、サービススタッフ、事業の三者が価値を感じるサービスの生産性向上とは、いったいどうしたら実現できるのでしょうか。

まずは、そもそも「サービス」とは何なのか、その本質を理解したうえでサービスの生産性向上に取り組む必要があります。サービスの本質というのは、お客様の事前期待を捉えることです。いくら我々が良かれと思って提供したことでも、お客様の事前期待に合っていなければ「サービス」とすら呼んでもらえません。それはもはや、余計なお世話や無意味行為、迷惑行為と呼ばれてしまいます。我々はお客様の事前期待を捉えなければサービスを提供することすらできないのです。

 

言われてみれば当たり前に聞こえますが、実は多くの場合、お客様の事前期待はあまり意識できていません。「良いサービスは喜ばれるに決まっている」と思い込んで、勝手に作ったサービスを一方的にお客様に押し付けてしまっているのです。これではお客様に喜んでいただくことはできません。

このように、事前期待を捉えずにアレコレ取り組むのは、目隠しをして的を狙うようなものです。もしかしたら、偶然何回かは的に当たるかもしれませんが、多くは的を外してしまう。せっかくお客様に喜んでもらいたいと思って、手間をかけて取り組んでも、お客様の事前期待に合っていないために、喜んでいただけない。悪い場合には、やればやるほどお客様は離れていってしまうことすらあります。これはであまりにもったいないと思います。

サービスも事業なので、人や時間やお金が限られている中でサービスを磨き上げなければなりません。そこでまずは、「何に取り組むか」「何をやめるのか」を考える前に、「満たすべき事前期待は何か」をハッキリさせることが重要です。事前期待を捉えることができると、その事前期待に応えるために何に取り組むことに価値があるのかが自ずと浮かび上がってきます。それと同時に、その事前期待に合っていない取り組みは、もし無意味行為や迷惑行為になるようであれば、「やめること」も明確にできます。このように、事前期待から外れている「やらなくても良いこと」「やらないほうが良いこと」をやめることで、そこに割いていた努力を、事前期待に応えるための価値ある努力に振り向けることが可能になるのです。

もちろんサービスコンセプトや事業性も考える必要がありますが、このように、事前期待を中心にサービスを組み立て直すことで、サービスの効率化と価値向上を両立は十分可能だと思います。サービス提供者の一方的な思いでサービスを改革しても、お客様、サービススタッフ、事業のいずれかを犠牲にすることが多いものです。お客様の事前期待を捉えて、お客様もサービススタッフも事業としても価値を感じるサービス改革が今求められているのだと思います。

最後にひとつ付け加えさせて頂くとすれば、サービスの価値の見える化や実感化に取り組むことも有効です。日本のサービスは、お客様に喜んでいただきたいという思いで、一生懸命にサービスを仕立てていることが多いものです。その努力の結果が、ちゃんとお客様に価値として伝わっているでしょうか。

「私のためにこんなに一生懸命やってくれているんだ」
「こんなことまでやっているとは、知らなかった」
「さすが、プロは違うなぁ」

例えばこんな風に感じて頂くことができたら、サービスの評価は高まるはずです。せっかくお客様のためにしている努力は、ちょっとした工夫で見えたり実感できるようにすることができます。サービスの生産性向上の取り組みは、事前期待を捉えて何か新しいことに取り組む、または何かをやめてみる、ということだけではありません。今、既に行っている取り組みの価値をお客様が実感できるように見える化することも有効だと思います。

サービスの生産性向上に注目が集まっていますが、サービス提供者の一方的な思いや勇気で、何かに取り組んだり、何かをやめたりすることは得策ではありません。その前に、まずはサービス事業として捉えるべき事前期待とはいったい何だろうかと考えてみることが、サービスの生産性向上には欠かせないのではと思います。
 

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<筆者プロフィール>
 

 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革を専門として、サービスサイエンスに基づいたサービス改革やCS向上の支援や研修を行っており、これまでに業種・業界問わず数々の企業の支援実績を有している。
大手製造業で商品開発に従事し、同時に事業開発プロジェクトリーダーを務める。その後、平均62歳、150名のシニアコンサルタントが集うワクコンサルティング(株)の副社長として事業運営に携わると共に、サービスサイエンスチームリーダーを務める。現在は独立して、サービスサイエンスの考え方を活かして、サービス改革やCS向上を支援している。

 ▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
 http://www.service-kaikaku.jp/