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リーダーの声

2016年8月5日

株式会社喜久屋 代表取締役 中畠 信一 氏

「競争から共創へ。共同参画型サービスへの取組みで共に生き残る
 

喜久屋の事業紹介
クリーニング業界は、92年をピークとして23年間、前年割れを続けている業種です。8,200億あった市場が、今は4,000億を割り込んでいます。約60%の市場が無くなってしまったということになります。そういう中で、全国のクリーニングの事業者の方とネットワークを組み、その局面を打開しようという取組みをしております。
まず、喜久屋の事業を4つ紹介いたします。
一つはクリーニングの取次店という展開です。これは1956年創業当時からのスタイルで、来年おかげさまで60周年を迎えます。
もう一つは、13年前から行っているe-closetというWebサイトでのサービスです。インターネットでキットをお申し込みいただき、ご自宅で季節の衣類を詰めて送付していただくと、半年間、保管期間は無料でお預かりさせていただきます。
あとは、フロントコンシェルジュサポ-トという、全国のマンションコンシェルジュのクリーニングサービスとして居住者の方にご利用いただきます。私どもが、システム開発、コールセンター業務、管理を行い、各地元のクリーニング業者さんと提携をして、地元のクリーニング屋さんには従来と変わらないクリーニングサービスを展開していただくというものです。
もう一つが、海外事業で、最近タイ・バンコクにご縁がありまして、今現在は、工場が1つ、店舗が12店舗バンコク周辺で展開しております。
基本は4つで、今回皆様にお伝えする新しい事業で5つの事業が全てということになります。

喜久屋の経営理念
私どもの経営理念は「喜久屋でよかった!」です。各事業だけではなく、日々の取組み、教育の判断基準といった全ての取組みに一貫しているのがこの経営理念です。また、事業化に関しましては、この経営理念の具現化が大原則になっております。
「喜久屋でよかった!」の「よかった!」とは善です。善の創造です。人類の生存、発達、安心、平和、幸福を実現するためのモノでありコトというふうに教わっております。私どもは、事業活動を通じて、この企業で良かった=善を創造することを理念に掲げ具体的な取組みを日々行っております。

クリーニング市場の動向
クリーニング市場は、1992年をピークに、市場全体と一世帯あたりのクリーニング支出、それが奈落の底に落ちるように、実に右肩下がりという現状です。この状況は全く歯止めが掛かりません。その結果、クリーニング業界がしていることは安売りで、Yシャツ99円等が全国各地に広まっています。額面上安くするということは、手抜きをするしかありません。要求品質に応えることは絶対に不可能です。それは、実際にものづくりをしている立場からよく分かります。
それなのに、目先の売り上げ、現金が欲しいと、業界多くの方がそういった取組みをされている。私は、一部の同業者の方も同じ気持ちでいるのですが、その状況を打破するのは、新たな価値・需要の創造しか手立てはないと考えています。そこで今回、リアクアという事業を起こすに至りました。

事業化の動機と目的
リアクアというサービスを一言で申し上げますと、無意味な競争から、価値ある共創へ善化、善化というのは私の造語ですが、そうするための共同参画事業であると考えております。
事業化の動機は、クリーニングに対する苦情や不満の増加を「クリーニング離れ」として捉え、危機感をもって現状を真摯に受け止めて何とかしましょうということです。
そうは言っても、気概を持って、真摯に愚直に取り組んでいらっしゃるクリーニング事業者さも全国にそれなりにございます。そういう方たちに、もう一度業界の信用回復を、ただの信用回復ではなく、より役に立つサービスを共に創造しましょうとお声がけをして立ち上げたのが、宅配ネットクリーニングである、「リアクア」という事業です。
私が全国のクリーニング屋さんにお声がけに伺った際に、各地域で聞いてきたことをご紹介します。
一つは、広島市内のクリーニング店の話です。広島は島が多く、瀬戸内で、島しょ部に住んでいる方が、島にあった個人のクリーニング屋さんが閉店してしまい、毎週広島市内のスーパーの中にある、クリーニング屋さんに出しに来て、そのときに先週出したものを引き取って帰る、という生活をしている。ですから、この事業は本当に島しょ部に住んでいる方のお役に立つと思いますとおっしゃっていました。
もう一つは、大分県中津地方のクリーニング店の話です。近くに集落が二つあり、その集落のクリーニング屋さんが廃業され、二つの集落に住む人たちはクリーニング難民になった。その社長曰く、うちが集荷配達に行ってもいいのですが、そこへ行くコストと売り上げのバランスが余りにも合わないということで、今回の事業に対して非常に関心を持っていただき、ご縁があって大分はお願いすることになりました。
「クリーニング難民」ですが、全国の10万人未満の市町村では、クリーニング屋さんまでの平均の距離が4.9kmという状況で、問題視されています。また、都市部に暮らす方は、マンションに住む方が多く、基本的に収納スペースが戸建てよりは少ないわけです。そこで今回、リアクア事業に、私どもが13年前からやっております、e-closetというクリーニング料金だけで半年間無料でお預かりしますという同じサービス内容を付帯させました。過疎化している地域と、都市部でも収納スペースが無い、そういった真逆の属性の生活者の方にお役立ていただけるサービスではないかと考えております。
もう一つ、実は宅配ネットクリーニングサービスとは言いながら、お電話一本で全て完結するようにもしております。お電話一本でオーダーを伺い、クロネコヤマトへデータを転送し、ヤマトさんが当該地域に集荷へ行って、近くの登録いただいているクリーニング屋さんへ配達してもらい、クリーニングして、またヤマトが届ける。そのときに、Webだとクレジットカードの事前登録での決裁が当然可能ですが、ご高齢の方、インターネットも分からない、クレジットカードもない、という方も、ヤマトさんの代引きサービスがございます。100%アナログでも対応できるサービスです。全ての方に対応できるようにという思いで、皆さんがあまりやりたがらない電話での受注、問い合わせ説明をあえてさせていただくという部分に拘って今回事業化をしました。

リアクアの意味
リアクアのアクアは、フランス語で水、リアクアのreというのは復元・蘇生、一言で申し上げると原点回帰という意味がございます。大文字のAは、始まりのAということで、衣類で言うと購入の状態に近づける努力をしましょうという意味が入っています。ドライクリーニングが始まって120年くらいなのですが、その当時のクリーニング事業者の気概、原点に立ち返って仕事をさせてもらおうという思い、お客様のお召しになっているものをきれいにさせていただいて、喜んでいただいて、対価をいただくという原点に戻りましょうという意味もこのAには入っております。
そして、Quaというのは、品質Qualityの頭3文字。これは、製品品質とサービス品質と両方の意味を持たせています。reとAとQuaをつなげてre-Aqua。ただの水ではなく、澱みの無い、混ざりけのない、純粋な事業、サービスを目指しましょうという意味でネーミングをしました。

リアクア事業の特長
ブランド・システム・料金は全国一緒で、業務は分散し、47都道府県の一定品質をクリアしているクリーニング事業者の方々に、各エリアで実際のクリーニング作業と保管はお願いするというのが特長の一つです。一極集中で喜久屋がこれを行って、全国からクリーニング品の保管が送られてきてもすぐにキャパオーバーしますので、生産のキャパシティのリスクをヘッジしましょうというものです。
もう一つは、地域ごとの委託工場による作業で物流コストを抑えるというものです。今、e-closetは、47都道府県全てにお客様がいらっしゃいます。北海道からも沖縄からも東京の喜久屋に宅急便を通じてお送りいただいていますが、よく考えると北海道から東京へクリーニングを送るというのは何か正しくない。本来であれば、モノを買うわけではないので、自分の大切な衣類を信頼した業者に預けて、きれいにしてもらって、返してもらうというサービスですから、できたら、地元で顔の見える範囲の方が良いに決まっています。そういったことから、地元の業者と限定しました。お客様に、ここに工場がある、これだけ店舗を持っている、昭和何年からやっている、と企業情報を得た上でご利用いただくというのが特長です。喜久屋ではなく、リアクアグループで今回の事業を担当させていただく、顔の見えるインターネット宅配クリーニングサービスということです。
業界横断的な経営により、スケールの大きい成果支援サービスとして成長をする。これは、先程のキャパシティのこともあるのですが、ともかく増えれば増えるほど同胞を募っていって同じ気概、理念を共有しながら事業の拡大を物量に応じてしていくことができる、これも特徴の一つでもあると考えております。

宅配ネットクリーニング
喜久屋は、宅配クリーニングサービス、リアクアの本部として担当いたします。各都道府県のエリア登録事業者に、クロネコヤマトさんの営業所が紐づく。注文者は我々のコールセンターへご注文いただいて、その情報を、そのエリアのクロネコヤマトさんへ提供して、集荷・配達をしていただくというイメージです。これが、47都道府県あって、今後拡大していくというふうに考えております。役割を分担して、個々のパフォーマンスを最大に引き出していきたいというのが今回のテーマの共創ということになります。
普通は、一社でこれをやりたがると思いますが、とんでもありません。地方のことは地方の方でなければ分かりません。プロモーション一つ取っても、各地でどういうプロモーションをすればいいか分からないのです。私どもは、東京では何とか商売できるとしても、地方ではできませんので、地方のみなさんと一緒にさせていただくというのが基本的な部分としてございます。
私どもの、過去の経験を踏まえた、喜久屋オリジナルの取組みですが、例えばワイシャツのボタンが割れてお返ししたら、ズボンの線が、二重線になってお客様の手に渡ってしまったら、クリーニング料金は全額返金します、または、無償で再加工しますと、ということを何年かやらせていただいています。
そういうようなことが実現するしくみや、保管庫の物流管理のシステム、トヨタ生産方式を二十数年間勉強しておりますが、トヨタ生産方式に関する全てのノウハウ、システムというのを今回ご縁のあるクリーニング業者の方には無償で提供します。我々が長く培ってきたサービスを通じて、業界の善化をしていきたいと考えております。
宅配ネットクリーニングリアクアは、事業構造的にはWeb事業運営は喜久屋で行い、クリーニングは地域別の工場が担当します。強みは、地域別の生産工場へ直送することで送料コストが低減し、納期も短縮、工場分散により生産効率も向上する。例えば、東京は喜久屋が担当しますが、キャパオーバーしたときには、埼玉、千葉、と近隣の県の方がフォローアップしていただける仕組みになっています。従来ですと、店舗業態でやっていくと地域でバッティングするケースがありますが、今回は都道府県で線引きをされているので、全く競合という概念はありません。もう一つ、全国の事業者で一斉にとりくみますので、それぞれ独自の技術も、システムも持っていらっしゃる。競合をせずに、お互いを高め合い、事業全体、サービス全体が自動的にブラッシュアップしていく。それも強みの一つだと考えております。
仕上がりは最短で4営業日。保管も、保管庫の融通を当然考えておりますので、保管期間は6ヶ月間無料で延長も可能。その辺のノウハウも全て提供します。その結果、1回のご利用金額が3,000円以上の場合には、往復の送料全て無料ということが実現しました。 

余暇創造と空間創造
サービス業は二通りあると思います。一つは「~したい」というサービス。もう一つは、「~しなくちゃ」というサービス。「たい」と「ちゃ」の差は凄くあります。ディスニーランド行きたいはあってもディスニーランド行かなくちゃはありません。クリーニングは「ちゃ」なのです。それを何とかしたい、お電話1本Webからワンクリックでヤマトさんがお客様の都合に合わせて集荷に行って、洗って、預かってと言ったら保管も無料でしますし、すぐ返してと言ったら4営業日でお返しできます。だからもうクリーニング屋へ行かなくて済むのです。その結果、余暇ができる。余暇創造が、サービスの価値の一つだと思います。
もう一つは、空間創造という価値です。主に保管ですね。冬服のダウンウェアや嵩張るものを全部無料でお預かりします。少しすると布団などもリアクアでお預かりさせていただきますので、結果的に部屋が広くなります。「リアクアを使ったら、洋服がきれいになった」は当たり前で、「リアクア使ったら部屋が広くなったよ、子供部屋ができたよ。」というイメージです。 

管理代行の安心感
保管だけではなく、お預かりしているものは、アプリ化してスマホ・PCで一目瞭然です。そこから、返却の指示や、問い合わせや、延長保管の依頼ができますので、いちいち自分で「あの洋服どこへしまったっけ」ということは無くなります。管理代行も、生活者から見たリアクアの一つ価値というふうに考えております。

クリーニング業界の再構築
リアクア事業のみならず、業界に関わっている者として、クリーニング業界の再構築=善化をしたい。このままでは本当に奈落の底へ行き、クリーニング離れどころでは無くなります。何とか右肩上がりの業界トレンドに変えていきたい。向こう100年を見据えて、人口も減りますし、労働者人口も減れば当然クリーニング需要も無くなってきたり等色々ありますので、クリーニングという単体のモノではなくて、モノからコトへということで、e-closetを13年前に始めました。今度は、コトから大ゴトにしよう、みんなを巻き込んで、ご縁ある方と一緒に、同業者のみならず、色んな方々と一緒にスクラムを組んで善化のための大ゴトづくりをしていきたいと考えています。

事業アライアンス
アパレル業界さん、住宅関係、物流業界、コンビニ業界、様々な業種・業態の方々と我々クリーニング業界が融合して、新たな価値=善を創造して、社会に役立って行きたいというふうに考えています。イメージでいうと、リアクア事業を1として、他の業種・業態を1として、できたら1+1=2でなくて、3とか4とか5になったら素晴らしいなと考えています。
一つ私がどうしてもやりたいサービスがあります。地方を回って、過疎化している所も沢山見てきました。都内も一人暮らしの老人が大勢いらっしゃいます。たまたま、一人暮らしのおばあちゃんの洗濯代行をしているクリーニング屋さんがありました。毎週お伺いして前回分を渡し、一週間分をバッグに詰め込んでもらいバッグごと預かります。その時のレポートを、東京に住むお嬢様にメールで送っている。これは、形は洗濯代行なのですが、目的は安否確認です。お支払いは、東京に住むお嬢様から振り込まれるとおっしゃっていました。それは我々全国ネットのクリーニング屋にしかできません。是非事業化して洗濯代行サービスにオプションで、安否確認やいろいろなものとサービス融合ができるのではないか、それが、1+1が3にも4にも5にもなる善を創造するサービスになっていくのではないかと考えております。

衣類販売とクリーニング需要の相関
アパレル事業者さんからアライアンスのお話もいくつかいただいているのですが、アパレルさんのほうは、洋服ダンスが空くと洋服を買うという属性があるらしいのです。ということは、無料保管サービスで洋服ごとリアクアが預かれば、その分アパレルECサイトなどで物が売れるということになります。洋服が売れるとクリーニングも出ます。買った服はやっぱり大事だから、とサイクルが善化すると経済活動が活発になるので、アパレルさんだけではなくていろんなサービス業態と融合することによって、様々な価値が生まれて、増幅していくのではないかと感じています。

イノベーションについて
よく取材をいただいたときに、何でそんなアイデアが浮かぶのですかとか、どうしたらそんなこと気付けるのですか、というご質問をいただくことがあります。
改まって考えてみると、気付ける時、思いつく時には自分なりに前提条件があります。それは、自分の気持ちが純粋なときです。純粋と言うのは、儲けたいとか、売り上げを上げたいとか思わずに、いかにして地域の方、お客様、社員、取引先に喜んでいただけるか、お役に立つことができるか、もう自分のことは全く考えていない気持ち純粋な考えでいるときに、気付きをいただきます。上手く発想が出てこないとき、とりあえずこうやってみようとか、事が上手く運ばないときは、やはり、自己保存の本能も含めて、自分のことを考えてしまっています。イノベーションは手段・方法であり「目的」ではない。じゃあなぜイノベーションを行うのか、これは、よく例にして挙げるのですが、マイクは今、拡声機能を全うしていますからマイクとして使われています。これが、配線が切れたとか、マイクとしての機能を果たさなくなったら、当然お役御免となります。経営も一緒で、これまで使い古された経営の方法が時流にそぐわなくなったら、時流に合うように改変しなきゃいけないと思うのです。そうしないと、壊れたマイクのように捨てられる。だから、時代に合わせて改変しましょうというのがイノベーションを行う意義です。イノベーションの目的は、経営理念の具現化以外に無いと思っています。今回は「喜久屋やでよかった」と書いてありますが、喜久屋をリアクアに置き換えていただいて、「リアクアでよかった」と、そして善の創造をしていくというのが我々の使命と考えております。

ミッションとして
今回の取組みを通じて、もしくはこれをきっかけにして、まずはクリーニングサービス全般の質的向上を目指していきたい。質というのは、製品品質もそうですが、それに携わる一人一人、経営者を含めた人間的成長、そういったものも叶えることができたらいいなと思っています。二つ目は、右肩下がりのクリーニング業界のパイをリアクアで取るというのではダメなのです。誰かが悲しい思いをします。それは、正しくないし、善ではないです。だから、シェア争いではなくてクリーニングの総需要そのものの増大を目指して業界に貢献していきたいと考えています。具体的には、ご縁があってタイでクリーニング事業をしておりますが、2年以内にベトナム進出も決まりました。アセアン市場は今でも右肩上がりでこれからクリーニングなのです。世界で一番素晴らしいクリーニングの技術を持っている日本が、事業者の人たちとみんなで海外へ行って、アセアンの方々に喜んでいただける、アジアの方に喜んでいただける。結果、クリーニングの総需要が増える。クリーニングでインバウンドっていうのは無いので、行って今までやってきた技術ノウハウ全てを輸出しましょうという取組みも、私の誓いとして全国でリアクアとして共同参画していただいた方々と取り組んでいけたらありがたいなと思っております。
去年、日本アセアンクリーニング連合会(JACA)という一般社団法人を作りました。こちらの取組みを通じて、日本のクリーニング技術、サービスの輸出をしつつ、総需要拡大目指して行きたい。その一翼を担う社団法人になってもらえたらいいなと考えております。

 
 (「SPRINGシンポジウム2015 in東京」にて)