経営者の声

2016年3月25日

株式会社明神館 代表取締役 齊藤 茂行 氏

「明神館が進める「本物」のサービス」
 

ブームを作る
45年前に、大学を卒業して何も知らずに明神館へ入ったころは民宿で、日観連、国観連にも入れないような宿でした。その頃の旅館は火事が多く、まわりの温泉地は近代化され、ほとんどがビルになりました。私も、何とかしなければと第1期工事を行い、12ルーム作りましたが、工事が出来た理由は情報です。nonno・ananなどの雑誌でお客様がどんどん増えました。おかげさまで第1期工事が終わり、その後、露天風呂ブーム、日本の宿ブームと、黙っていてもお客様が来ました。平成5年、バブルが終わり景気が徐々に悪くなったころ、次のブームは自分で作ろうと思いました。
昔のお客さんは大勢で来て宴会をして、自分たちで楽しむことよく知っています。ところが、平成になってからは、カップルが多くなり、私たちをどうやって幸せにしてくれるの、とサプライズを求めてくるようになりました。そこでリゾートをブームにしようとマントルピース(=装飾のある暖炉)の部屋を24ルーム作りましたが、みんなに真似されないようにと、マスコミに出さなかったのが大きな間違いで、これは売れなかったです。やっと今、マントルピースの部屋を喜んでいただける時代が来ました。また、露天風呂も、みんなで入るのではなく、客室付きの露天風呂というのがお客様のニーズになってきました。その頃から半露天の部屋を作り、部屋はベッドルームに換え、リゾート風にすると人の手が非常に大事になり人材育成を考えました。

サービスをチームワークで考える
バリ島のアマンのホテルは、私が外から帰ると「齊藤さま、お帰りなさい」と私の名前を言います。フロントだけでなく清掃の人も「齊藤さま、お帰りなさい」と言うのです。私はこのホテルで大事にされているのだなと感動しました。そして、ウチの社員にも、スキルの部分でそういうことを教えた方がいいのではないかと考え、社員教育の柱をどこにするのか、みんなで話しました。一番大事なのはお客様が来たときにすぐにサービスという商品が出せるか、この訓練なのです。
お客様の心を読む、そして同時に同僚の心を読む。同僚がお客様の情報を貰ったことによって、どういうようなサービスをするかチームワークで考える。私共も、お客様を名前で呼べるように教育をしましたが、チェックインの時に、そのサービスを受けたお客様は、チェックインからチェックアウトまでトータルでそのレベルを求めてきます。人材育成、チームワークはみんなで考えてやらなきゃいけない。会社側の我々が考えてもそれはマニュアルに過ぎない、どんな時に怒られてどんな時に喜ばれるのか、それが経験と体験だと思います。
第5期工事の時に、お客様が選択出来るように、45室しかない旅館でフレンチ、和食、懐石料理、そして新しいモダンの懐石も作りました。フレンチだとお客様は恐らくワインを召し上がる。若い者に、ワインについて多くのことを教える。すると、厚い本を読んで更に多くのことを覚える。1年では覚えきれず、ソムリエのバッチを貰うために、何回もテストに落ちますが、そのスキルを与えることは若い学生には嬉しいのです。
大学を出て5年間は沢山テストをしろとサービス向上のためのJTBのテストなども受けさせます。3級を取れた、2級を取れた、1級を取れたというスキルが、明神館で働く事の一つになっています。
厚生労働省でも、旅館の人材育成の為にレベル1~レベル4の職業能力評価チェックシートを作りました。それを明神館でも作り、基本的な理念をよく知っているか、上司が部下のチェックをします。上司の思っていることと、若い子の思っている事それを重ね、一致すると評価されるわけです。評価されるということは、地位が上がり、お金も上がります。
いつまで経っても何をしているのかわからない。そうならないために、47業種の人材育成施策を作りました。これは国が作るのですが、業界止まりでなかなか手元までは行きません。旅館で講演をして、企業秘密を言っても、真似をすれば儲かる話をしても、誰も真似してくれません。
私も、旅館へ行きますが、旅館って本当にひどいと腹が立ったのが、チェックイン時に、夕食の時間と飲み物、朝食の時間、チェックアウトの時間まで全て決めなければならないことです。だから旅館離れされるのです。従業員には「お金を払ってでもああいう旅館を見て来い。嫌だろう」と、そういった人材育成をしてきました。

社員のモチベーションを上げる
基本的には社員のモチベーションです。週40時間、法定労働時間、週休2日制、これは経験の中からきちんとシフトを考えれば出来ないことではない。サービス産業のこれからの労働時間管理、これが厳しくなります。サービス残業が当り前では今の若い人たち働いてくれません。働いている人に「I LOVE 明神館」の気持ちを作らせないといけない。
私は新卒の人が来たときに、私と人生をつくろうよと言います。今年の4月も14人、私は辞令を出しますが、途中で辞めるようなことではかわいそうです。辞めるってものすごいエネルギーがいるのです。そして1回、私のところで嫌気がさして就職を変えたら、また嫌になったら次のところに行くのです、そういう人を作りたくないと入社式には一応カッコよく言うのです。「評価基準の内容をみんなで作れ。会社の社長や取締役が決めるとややこしくなる」、「レベル1~レベル4を自分でやろう」、「偶然で上のレベルに行くのではない」。
4年くらい経つと、レベル3まで行く子がいます。先ほどのワイン、酒、サービスの仕方、全部わかってくるのです。頭のいい子はお客様の顔を見て、このお客様には何をしたらいいかどんどんわかる。でもそれでいいと思ってはいけない。サービスが出来る人はなかなか下に教えない。今度は、出来る人が教育し、部下も同じレベルになっていかないといけない。
私共は4人の支配人がいますが、サービスの総支配人は、まだ40歳になっていません。若い子ばかりです。残業を少なくしてあげたいと、今年も増員しました。我々の商売は、入ったら恋愛が出来ない、土日は休めない、そういう我々に対するマイナスの情報を沢山貰ってきて、仕事が辛くなると辞めてしまうかもしれない。なるべく残業のない部署にするには、人を多くしないといけない。我々中小企業ですから125%、残業だと135%の給料を払うべく頑張らなければいけない。フランスでは175%で、もうじき日本もそこまで言われる可能性がある。果たして我々はきちんと経営が出来るでしょうか。評価基準を作り、やりがいをみんなに理解させるということをサービスでは考えております。
管理部では、今自分がどれだけこの会社に貢献しているかをちゃんと教えてやらなければいけない。部門別、客室別にどれくらい儲かっているかを知らなかったら何の意味もないです。「私の部門の方はこれだけ儲かっているね」、「俺たちはやったよな」。そういうことを一人ひとりに分かって貰わないとI LOVE明神館の気持ちにはなりません。毎月1回、儲けを見せる事で、やらされているのではなく、一人ひとりが商売をしていること、働いていることを自覚すると、私は考えております。

全ての社員に経営を教える
私の立場では、長期の安定した経営を考えていかないといけません。コンプライアンスが非常に強くなり、守らなきゃいけない法律が沢山あります。建物だとビル管理の法律があります。消防法で言ったら年に1回ずつ行う。調理室も、私どもの所は年に1回、法的には保健所が来ますが、年に4回、金沢からわざわざ抜き打ちで見に来ます。そういったコンプライアンスがある中で、いいお金をとるけれどもいいサービスをして利益を出そうというのは大変なことです。それを補うのが我々の決算書の作り方です。日本旅館協会へ年に1回、平均的な大・中・小の決算書を皆出します。旅館としてはP/Lばかり気になるが、本当はB/Sです。私は、タブレットで毎日P/LとB/Sを見ます。外出時にも決算書を読みながら、こういう仕掛けをしろ、マーケティングの中でサービスを考案してこういう商品を作れと言います。そして、貸借対照表の科目を少なく簡素化して、経理担当者だけでなく社員みなに、流動資産・流動負債をいつも見なさい、流動負債に対して流動資産を何か月分持たないといけないか、流動負債なるべく少なくしなさい、それがポイントだと経営を教えて誰でも知ることが出来るようにしています。
旅館はお客様がいなければ何もしないで立っていればいいのです。この時間が15分だったらいくらになるのか、15分間何もしなかったらそれだけ損する。もしクレームが1個ついたら、大変です。ビール代3000円位パーッと利益が飛びます。更に頭を下げてどうのこうので、お金のロスが凄い。それが年に何回あるの、という数字まで全部調べてあります。こういうことを自覚しないとサービス産業などやれません。同じことをしても喜ぶお客様と喜ばないお客様がいる。でもきちんと経験と知恵があれば、お客様にそう言った思いをさせない。そしてお金のロスも出さないでやっていけると私は考えています。

ピープルビジネスの素晴らしさ
一流企業は、社員が数字を知っていて新しいマーケットを考え作っていく。そういうムードを作っていくのが凄いなと思います。私どももそういう人間を作らないといけない。今私の息子の専務も40歳で、お金の借り方を教えております。きちんと指導して次の社長にしたい。また専務を尊敬して、いい人間を作るグループを作る。ドラッカーの世界です。一人ひとりが何をしたいのかを、チームで考えないとやっていけないだろうと思います。
まずは利益を出して、人件費ではなく労働分配率で一生懸命やったお金がみんなに分配される。分け前は自分で作ろう。そしてモチベーション上げて、もっといろんなことを勉強してスキルを上げる。ピープルビジネスのありがたみとは、10年20年を振り返った時に、自分が変わったことを知ることです。このピープルビジネスの素晴らしさをわかっていただいて、私のところで就職して頑張ってくれたら、給料でなくて、退職金でなくて、現金ではないけれど、やり甲斐とかそういったお布施で返したいとそんな風に思っています。
企業は人なり。私を支えてくれているのは、一生懸命働いている一人ひとりです。

 

 
 (「SPRINGシンポジウム2014 in名古屋」にて)