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リーダーの声

2015年3月25日

ジャーナリスト 田原 総一朗 氏

~東北の復興と新産業創造に向けて~ 

 

ローカル企業を良くする
私の親しいエコノミストの冨山和彦さんが「みちのりホールディングス」というバス会社を経営しています。岩手、会津、茨城のあたりをカバーするバス会社で、世の中は変わった時がビジネスチャンスだと、最近会社を立ち上げたのです。
東京は車を持つ人は少ないですが、地方に行くとみんな車の運転をします。ところが車を運転している人達がだんだん年をとり、運転出来なくなってくる。運転出来なくなるとバス会社が流行る、それでバス会社をつくったのです。その冨山さんが、日本の景気を良くするには、ローカル企業を良くする事がポイントだと言ってます。みちのりホールディングスはまさにローカル企業の典型なのです。

山元町のイチゴ
宮城県に山元町という所があり、先日ある男性の取材に行きました。彼はもともと東京でIT企業をやっていました。そこに東日本大震災が起こり、山元町に帰ったら津波にやられていました。東京から山元町に戻り、復興させるにはどうすればいいか考えました。山元町の特産はイチゴなのですが、イチゴの畑も津波の被害に遭いました。そこでイチゴの復興を考えましたが、山元町のイチゴは大震災の前から斜陽産業だったので、復興では意味がなかったのです。どうせやるなら斜陽の下に戻るのではなく、「イチゴで日本一の農業を作ろう」ではないかと彼は考えました。それで日本中のイチゴのプロ達に、ノウハウを聞いてまわりました。でもプロ達の話を聞いて作ったのでは、それはやはり復興なのです。そこで彼はオランダへ、野菜や果物の作り方を勉強しに行きました。実はオランダは野菜や果物の輸出量世界一で注目されており、完全にIT化されています。イチゴというのは朝から晩まで、いかに手間隙をかけるかが勝負です。その手間隙を人間じゃなくITでやる、これを導入しました。
山元町のイチゴは、「ミガキイチゴ」といって元々そんなに全国的に有名ではありませんでしたが、九州の「あまおう」に対抗するイチゴを作るのでは、彼はまだ満足出来ません。世界のイチゴ農業を目指し、インドに渡りました。要するに復興とは元に戻る事ではなく、むしろそこから大いに発展させようという事が大切ではないかと思います。まさに彼はそれを実行し、日本とインドを行き来しておりました。

三方善し
私の出身地の滋賀県は近江商人がいた所です。私は小さい時、近江商人が大嫌いでした。近江商人が歩いた所には草も生えないと言われるほど、貪欲だと聞いていたのです。商売と関係ある仕事はしたくない、後付けの理屈ですが、それもあって私はジャーナリストになったのだと思います。ところが30才を過ぎた頃から考えが変わりました。近江商人というのがよくわかってきたのです。そう言えば、幼い時から祖母が近江商人は三方善しだと言っておりました。三方善しとは、まず1つはお客さんに信頼される、お客さんにとって善し。2つ目はお客さんの集まりが社会だから社会から信用される善し。3つ目は自分にとって善し。これが三方善しです。一般的には、「売り手よし、買い手よし、世間よし」と言われていますが、そうではなく、まずは「お客さん(買い手)」、次に「社会(世間)」、そして「自分(売り手)」の順番であるべきで、顧客からの信頼が重要なのです。この三方善しを、私なりにやらなくてはいけないと思いました。

運・鈍・根
近江商人について、もう1つ祖母に言われていたのが、「運・鈍・根」です。人間は「運」が良くないといけない。運がいいとか悪いとかじゃなく、いかに運を引き込むかが重要なのです。そのためにはまず「鈍」になれ、馬鹿になれという事です。要領良くやろうとしたり、こざかしくやろうとしたりはいけません。馬鹿になって、要領よくやるのです。世の中で活躍する人は不器用な人間が多いものです。器用な人間は何でも出来ますから、器用貧乏で使われてしまいます。馬鹿になって、それで「根」気強くやれば運は開ける、これが「運・鈍・根」なのです。これと同じ事を言った人物が、京セラの稲盛和夫さんです。稲盛さんは、もともと「世の中に失敗というものはなく、チャレンジを諦めた時が失敗なのだ」と言います。たとえ何十回でも、諦めずにチャレンジをすればいつか成功する。「運・鈍・根」で、根気強くやれという事です。その稲盛さんがもう1つ言う言葉が「利他精神」です。利己でもなく、エゴイストでもなく、他人のために尽くし、他人のためになる仕事をしようというのが利他です。これも近江商人の三方善しと同じです。
もう1人、「運・鈍・根」の「運」を強調する経営者がいました。もう亡くなりましたが松下電器の松下幸之助さんです。私は松下幸之助さんに、部下を抜擢する時、どこを見抜くのか、部下のどこを重視するのか聞いた事があります。頭の良さでもなく、健康でもなく、誠実さでもなく、「それは、運だよ」と言われました。その人間の運がいいか悪いかは見てわかるそうです。要するに運がいい人はプラス思考なのです。抜擢したいのは経営陣に批判するのではなく、自分ならこうする、という前向きな発想、楽天性を持った人間で、どんどん運が向いて来るそうです。

人材から人財へ
私は最近京都の企業に大変興味を持っています。色々な会社がありまして、割に京都の企業はみんなうまくいっています。何故かというと、京都は狭い土地に多くの企業があるから、みんなが協力し合うのです。協力し合うと言っても、邪魔しないということです。邪魔しないというのは、絶対真似をしないという事です。京都の企業はオリジナリティを大切にします。そのために、本社の他に下請けなど使いますが、下請けや関連会社を差別せず、給料差をつけません。そうすると下請けのモチベーションが上がり、頑張ってくれて部品の品質が良くなります。それから、社員教育が充実しています。高校なり大学を卒業して入ってくる社員はまず「人材」、その材料の「材」を財産の「財」に変えるのが教育だそうです。それにはどうするか。まず入って来た社員に何でもチャレンジさせると、だいたい失敗します。失敗したら、またチャレンジさせる。また失敗する。繰り返しチャレンジして失敗した時に、初めて社員は何で失敗したんだろうと考えるのです。どこがいけないのかを考え、またチャレンジする。また失敗する。また自分の頭で考える。つまり、自分の頭で考える社員を育てるのです。今の日本の一部上場企業の社員達はみんな仕事をしていないという話があります。仕事するフリをしているだけ、上から言われた事をそのままやるのが仕事するフリだそうです。上から言われた事を自分が納得して、違ったら違ったと言って、自分の頭で考えてやる、これが仕事です。だから京都の企業はとにかく考える社員を育てるのです。

最後に、グローバリズムの経営は相当難しいですが、ローカリズムの経営は、当たり前の事を当たり前にやれるかどうかが勝負です。実はその当たり前の事を当たり前にやるのが難しいのです。



(SPRINGシンポジウム2014in盛岡にて)