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リーダーの声

2014年8月21日

イーグルバス株式会社 代表取締役社長 谷島賢 氏

 工学的アプローチと地域おこしによる
路線バス維持の取り組み


 

 

 バスは運輸事業ですが、人と人の接点があって成り立つサービス業であり、また人命をお預かりしている重要なサービス業だと思い、運営しております。

日本のバス業界の現状

 まず日本のバス業界について触れますと、乗り合いバス事業者の75%が赤字、地方のバス事業に限れば88%が赤字です。その結果、毎年約2000kmの路線が廃止されているという状態です。その理由としてモータリゼーションの発達によるバス利用ニーズの減少でしたが現在では日本の少子高齢化です。乗合バスのヘビーユーザーは毎日ご利用していただく通勤・通学の方々ですが、高齢化による定年退職者の増加、少子化による通学者の減少によって乗合バスの利用者は年々減少し続けています。

ダイヤ最適化による路線バス改善の取組み

 イーグルバスは1980年に設立し、2002年の規制緩和を機に2013年に乗合いバス事業に参入しましたが、生活路線の運行を開始したのは2006年、隣接する市の乗合バスが赤字撤退することになり、地元の要望を受けて引き継いだのが始まりです。路線を引き継いだ時に最初に感じたことは「なぜそこに停留所があるのか?」ということです。前の会社に聞いても分かりませんでした。路線バスはデータがなく、「見えない事業」ということが問題でした。したがって運行の計画は職員の勘と経験だけでやっていたのです。これは製造業でいうと品質管理と工程管理がされていない業界ということになります。そこで、私どもは路線バス事業の見える化に取り組みました。「運行・顧客・コスト」の見える化に加え、「改善過程」の4つの見える化をしました。PDCAサイクルもバス業界向けに再定義し、これまで7年間改善を実施してきました。

 最初に取り組んだのは、データをとる仕組みの構築でした。データを取得できれば改善できると考えたのですが結局、ハード(測る)・ソフト(見る)・考える(改善プロセス)がそろって初めて改善出来るという結論にたどり着きました。2009年にこれらがそろった時に初めて対前年を上回る利用者を獲得することができました。そして、ハード・ソフト・プロセスの三位一体による3年で路線バス事業を改善する「PDCA3年改善モデル」を考案しました。まず1年目に見える化をして問題点を抽出します。2年目に最適化したダイヤで運行し利用者に評価してもらいます。3年目に利用者の評価を入れてもう一度修正したダイヤで運行し、4年目に運行継続するか、撤退を含む見直しをするかの再評価をします。これをまとめたのが、「可視化とPDCA3年モデルを用いた乗り合いバス事業改善モデルの構成」で、私自身の論文テーマです。大きな特徴は可視化技術と改善プロセス自体もスパイラルUPして改善していくことです。

 ハード開発ではバスの入り口に赤外線センサーを設置し、停留所ごとのお客さま乗降人数を計測するしくみを構築しました。センサーも現在では第三世代となります。そして画像を使った第四世代のセンサーを実証中です。お客様ニーズは短期、中期、長期の複数のアンケートで取得しております。先ず車内に設置した「ポストカード式アンケート」で毎日お客様の声をひろいます。毎年ダイヤ改定後、利用者に「ダイヤ改訂評価アンケート」を実施しダイヤ改定が成功か確認します。地域住民の生活行動の変化・意識を知るために3年に一度「地域住民アンケート」を実施しています。これは最初に路線を引き継いだ時に、全戸アンケートを実施した時に「あなたの5年後のライフスタイル」を質問したところ、約2割の方が5年後には定年退職をしてバスを使わなくなるという衝撃的な答えが返ってきました。ドラッカーがいう「やがてくる確実な未来」を予測することができるのです。こうしたアンケートも毎回、設計を見直して、更に深くお客様のデータを取得できるよう改善されています。例えば運行の遅延を聞く質問の回答欄は、どこの停留所でどこ行きの何時何分のバスが遅れているか書くようになっており、コンピュータ情報と実態を照合しています。照合すると問題がある運行は実際半分くらいしかありません。ほとんどがお客様の要望や勘違いが問題点として挙がっているのです。残った改善情報を修正改善情報と呼び、改善することが望ましいのです。しかし、コストという制約条件がありますのでコストキャップの中で改善できる修正改善情報を取捨選択することになります。このように、利用者、運転士、運行管理者からの情報をスクリーニングして最終的に改善する項目を選定するという情報利用プロセスも私たちで構築しました。

 取得したデータを誰にでもわかるように色とグラフで表示する「見える化ソフト」も自社開発してきました。最初は停留所ごとの乗降数、乗車人数、バスの遅延を表示する機能でしたが、問題点の自動抽出機能、シュミレーション機能を付加してきました。運行を見える化することで、利用者がいない無駄な運行や使われていないバス停留所が分かり、日本の路線バスが赤字だという真の理由も明らかになります。また計画ダイヤと実際の運行の差が慢性的となり、大幅な遅延が生じているのにデータで見えないので放置され、利用者からはあてにならないバスと敬遠されてきた実態も明白に分かります。実際の運行が計画時間よりも慢性的に遅れている状態は、運転士にとって遅れを取り戻さなければならないという回復運転をしている可能性があり、事故リスクの高い運行ダイヤであることも分かりました。見える化によってそのダイヤを改善することで利用者は待たないで良くなり、運転士にとっても運転しやすいダイヤを計画することが可能となりました。

地域連携による生活交通のプロセス提案・路線最適化のチャレンジ

 2013年11月「交通政策基本法」が成立し、これからは、バス単独の個別政策から、まちづくりの観点の中で交通を考える包括政策にかわっていきます。路線バスの改善プロセスは、「測る」「見る」「考える」このステップが必要です。この中で最も重要なのは「考える」であり、現状を見える化し、問題点を共有した後で具体的な改善策を考えるのです。大手バス会社の中にはすでに運行データを取得できている会社もありますが、「見る」ことが出来ないために、「考える」段階までたどり着けず改善が出来ないのだと思います。私たちはこれまで「考える」段階で革新的なアイデアをいろいろと考えてきました。航空業界の考えを取り入れた「ハブ&スポーク」もその一つです。

ハブ&スポークによる地域拠点化・まちづくり包括政策

 ときがわ町の交通再編で町の真ん中にハブのバス停留所を設置しここですべてのバスを集約して乗り換えるハブ&スポークを実証し、輸送効率と利便性のアップを実現しました。このハブバス停留所は乗り換え機能ですが、このハブバス停留所にいろいろな施設機能を集めることで地元の人がここにアクセスすることでいろんなサービスが受けられるようになり住民の生活の質が上がります。コンパクトシティ構想が現在進められておりますが、過疎地においては、なかなか先祖代々の土地を離れられない住民が多いので、このハブに施設機能だけでなく行政サービスを集約し、昼間にこのハブに住民が集まれば、コミュニティの場になる、つまりコンパクトシティの本来の目的を違う方法で実現できることになります。この取組みを現在東秩父村で着手しました。「和紙の里ハブ化構想」としてサービス機能を集約します。住民だけの施設でなく昼間のバス利用者が少ない時間に観光客を誘因することで、一日の繁閑の差を埋めることができます。この観光客が喜ぶ付加価値を
まちづくりとして住民が関わることで、生活機能の向上、観光誘致、産業雇用創出、交通の利便化が一挙にできる包括モデルとなります。ぜひこれを成功させて日本のモデルにしたいと考えます。

 こういった活動により、私どもは、お客様のサービス利用の価値向上を目指しております。ご清聴、ありがとうございました。

以上


(2014/4/18 SPRINGシンポジウム2014 講演録より)