SPRING幹事より

2014年3月25日

東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授 伊藤元重 氏

社会変化の数ほどタネがある~

社会が成熟し、豊かになればなるほどサービスの役割が重要になってくる。

これは、いわゆる金融や流通、医療・介護といったサービスが主体の領域に特化した話ではない。たとえば製造業などでも、デザインや研究開発等、あらゆる側面でサービス的要素が深く関わってきていることは間違いなく、経済全体の中でその付加価値を高めていこうという方向にあるのは自然な流れである。
 
そこで、どうやったら社会としてより高い価値を生み出していけるかをしっかり見極め盛り上げていくことが、日本経済を活性化させ、同時に国民が豊かさを感じるためには不可欠である。
 
サービスのイノベーションにおいては、供給側の論理に立ち、効率的にモノを作ればサービスの活性化や革新につながるということではない。むしろどういう社会変化があり、それに伴うニーズがあるかという視点でもって、常にチェックすることが非常に重要だと思っている。
 
社会変化の数ほどビジネスチャンス、サービスイノベーションのタネがあり、それに成果が伴うと、結果として企業としての成果になるし、社会としても豊かになる。社会全体のあり方として共有しながら、日本は日本なりにその変化に対応できるような面白い仕掛けがあれば、道は拓けるだろう。
 
具体的な施策としては、ミクロの企業レベルにおいては、個々の企業が壁を乗り越えていけるよう、様々な支援を行うことが考えられる。たとえば、ベストプラクティスを選出して発信・広く普及していくことは、個々のサービス事業者に一つのロールモデルを提供するのに加え、メルクマークのようなものがあれば、そこから新たな発想が生まれることにつながる。
 
また、新たな価値というのは、異質なもの同士がぶつかったシナジーから生まれやすいというのが一つの定説であるが、これは産業や社会の価値も同様のところがある。官と民の連携でも、官が持つ良質な資産と民が持つノウハウやインセンティブを掛け合わせることによって生み出されるシナジー効果は大きい。両者が協働する機会をいかにつくっていくかが問われている。
 
他方で、もう一つポイントとなるのは、マクロレベルで日本経済全体のサービス化を推進するような制度改革である。マクロ的な視点に立ち、どの分野にどういう課題があるのか。業界全体のビジョン・展望を持ちつつ、具体的にどのような政策、あるいは制度の設計変更を行えばよいか。さらに、その中でもチャレンジしようという企業があって、そこで困っている問題があれば、それを一企業だけの問題として止めるのではなく、社会全体で共有すること。
 
サービスは、誰か一人が工場の中で、あるいは狭い作業場の中で新しい価値づくりに取り組めば生み出されるというものではない。社会との関わりだとか、皆がそれにどう関っていくのか、はたまた文化や価値観といったとらえどころのないものと関わっているため、非常に難しい。そのためにも、社会全体でサポートするような流れをつくることがとても大事である。
 
「高齢化」というキーワードを一つとってみても、今後、どうすれば高齢者に対して多様で充実したサービスを提供できるかと皆考えてはいるが、必ずしも次につながらないのは、やはりそこにはいろいろなハードルが立ちはだかっているからだろう。
 
小売業でいえば、デリバリーという新しい販売モデルに取り組んでいる企業が多いし、旧来のいわゆる狭い意味での介護サービスだけではなく、高齢者が持つ資産を流動化させ、うまく活用してもらうといった金融サービス等も含めて、チャレンジする課題はたくさんある。
 
2007年にサービス産業生産性協議会を立ち上げたことで、否が応でも、社会のいろいろな課題や方向性が見えてきた。これまでそれらを支える形で取り組んできたことは非常に良かたと思う。産業界、経済界、学界も含めて、サービス産業が大事だという認識が高まったことも追い風となっており、引き続きこの動きを止めないこと、試行錯誤の中で悩みながらも前に進んでいくこと。
 
よく自転車に例えるが、自転車というのはこぐのを止めると倒れてしまう。自転車をこぎ続けながらどうやって次のステージを盛り上げていくか。そのためには過去にやってきた成果をしっかり見据えて、次につなげていくことが重要である。まだまだやるべきことはたくさんある。
 
 

伊藤 元重 氏(サービス産業生産性協議会幹事)・談

生産性新聞2013年11月15日号「サービスイノベーション~今後の展望~」掲載