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【連載】CS向上を科学する

2018年6月1日

【CS向上を科学する:第59回】全員が顧客との成功体験を得るサービス経営力~日本の優れたサービスの共通点を紐解く~

 




松井サービスコンサルティング
代表/
サービス改革コンサルタント
松井 拓己


 

日本最高峰のサービス表彰制度である日本サービス大賞。今年はその第2回目の受賞サービスの表彰が予定されています。今回はどんなサービスが注目を集めるのでしょうか。また、それらのサービスから業界の枠を越えてどんなことが学べるのでしょうか。とても楽しみです。さて今回は、第1回日本サービス大賞を受賞した31件のサービスの中から、テーマに合わせて共通点を見出してみたいと思います。
 

顧客との強烈な成功体験がサービスの革新力に

第1回日本サービス大賞の受賞サービスの中には、顧客接点以外の部門の人が、顧客との成功体験を得ることで、サービスの革新力を高めることができた事例がいくつもあります。

旭山動物園は、“行動展示”で日本で一番人気の動物園に生まれ変わりました。その際に活躍したのが飼育員です。これまでは動物のお世話に集中するあまり、顧客との接点はほとんど持っていませんでした。「顧客にお尻を向けて仕事をしていた」と、当時を振り返っています。行動展示をコンセプトにしたサービス改革をきっかけに、飼育員が顧客に動物について話す場が生まれました。最初は渋々だったかもしれません。しかし、飼育員にしか分からない動物の一面について話してみると、目の前の顧客が目を輝かせて喜んでくれます。「自分の経験談は、こんなにも喜んでもらえるのか」。顧客と接して顧客に喜んでもらえた実感を持てた飼育員から、顧客の前に積極的に出て話しや展示の工夫が始まります。こうして、飼育員が顧客接点を持つことで意識が変わり、顧客サービスの最前線での活躍と相まって、行動展示が旭山動物園の人気の代名詞になったというわけです。

長野県にある住宅会社のフォレストコーポレーションは、一生で一度の家づくりに、家族で山に入って自分の家に使う木を選んで切るところから参加する“お客様参加型の家づくり”で注目を集めています。この家づくりサービスは、8年で事業規模が3倍に拡大するほどの人気ぶりです。このサービスの中核を担うのが、山に入って木を選んで切る「選木ツアー」と名付けられたサービスプロセスです。ここでは、地域の山を整備している山守(やまもり)が登場します。家づくりをする顧客は、山守から信州の木や森のこと、林業のこと、木の命をいただいて家がつくられることなどを見聞きしたうえで、山守と一緒になって、自分の家に使う木を選んで切るという一生に一度の経験をします。樹齢30年~40年の木が倒れた瞬間、感極まって涙する顧客も多くいます。木を切ることは日常茶飯事の山守にとって、たった1本の木を切っただけで感激する顧客との出会いは、自分たち林業従事者の仕事の意義や誇りを高める強烈なきっかけになるのです。そして、顧客のための家づくりにもっと貢献したいという思いが湧いてきます。こうして選木ツアーは、山守の自主的な顧客との関わりによって、進化を続けています。
 

顧客接点に引っ張り出す

サービス事業には、顧客と直接接点を持つ部門と、そうでない部門があります。サービス改革を進める企業では「顧客と接点をもたない部門の意識が変わらなくて困っている」という声を耳にします。顧客の顔が見えないところで仕事をしていると、どうしても作業に追われて“こなし仕事”が多くなってしまうものです。

そこでよく行われるのが、「社内顧客」や「下流工程はお客様」という考え方で、顧客接点を持たない部門も一体となってサービスレベルを高めようという取り組みです。働き方改革や自律分散型の組織形成、従業員のエンゲージメントが重視される昨今では、とても大切な観点です。しかしこれは心掛けの改善にはなりますが、意識改革までには時間がかかる傾向があります。

そこで効果的なのが、今回の事例が示すように、普段積極的に顧客との接点を持っていない部門が、顧客接点で心に触れる顧客体験を持つことです。
 

顧客経験は鮮度が命

顧客接点を持つべき部門が、顧客と会うことを渋ってはいないでしょうか。顧客接点を持たない部門も顧客に会いに行こうというスローガンが絵に描いた餅になっていないでしょうか。忙しい、人が足りない、余計な仕事が増えると、顧客接点を避けているようでは、サービスは進化しません。

ある企業では、年に1度、職人やエンジニアが顧客接点に出る場を作ったところ、直接顧客から褒められたり、感謝の言葉をもらったことで、自主的な営業同行や顧客コミュニケーションが増え、顧客との関係性が高まり、業績向上に貢献しました。

別の企業では、コンタクトセンターに集まる顧客の声を資料にまとめるのではなく、録音された生の声を聴く場を作ったことで、経営陣の意識が変わり、顧客への使命感や危機感が高まったことで、サービスの改革が動き出しました。

サービスはお客様と一緒に作るもの。生の顧客経験が、サービス向上のモチベーションになり、変化のきっかけとなることが多々あります。経営から現場までが、鮮度の良い顧客経験を持てているかどうか。サービス事業としての成長力にも関わる大切なポイントだと思います。
 

※参考書籍はこちら
日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~

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<筆者プロフィール>
     
 


 松井 拓己 (Takumi Matsui)  
 松井サービスコンサルティング  
 代表
 サービス改革コンサルタント/サービスサイエンティスト

サービス改革の専門家として、業種を問わず数々の企業の支援実績を有する。国や自治体、業界団体の支援や外部委員も兼務。サービスに関する講演や研修、記事連載、研究会のコーディネーターも務める。岐阜県出身。株式会社ブリヂストンで事業開発プロジェクトリーダー、ワクコンサルティング株式会社の副社長およびサービス改革チームリーダーに従事した後、松井サービスコンサルティングの代表を務める。
著書:日本の優れたサービス~選ばれ続ける6つのポイント~(生産性出版)
         https://www.amazon.co.jp/dp/4820120654

▼ホームページURL/サービスサイエンスのご紹介
 http://www.service-kaikaku.jp/