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リーダーの声

2017年4月3日

一般社団法人日本食べる通信リーグ/特定非営利活動法人東北開墾 高橋 博之 氏

「食べ物つき情報誌『食べる通信』

 

 

2013年に岩手県花巻市で「東北食べる通信」を立ち上げ、生産者と消費者を繋ぐ
取り組みを始めました。これを全国に広げるために、2014年に一般社団法人日本
食べる通信リーグを立ち上げ、最近では株式会社ポケットマルシェを立ち上げて、
スマホアプリで消費者が旬の食材を生産者から直接買えるという取り組みを始め
ています。

 

東日本大震災で見えたこと
食べる通信を始めたきっかけは2011年の東日本大震災です。僕は岩手県花巻市の人間ですが、震災の後、被災地沿岸の岩手県大槌町を中心にいました。多くの都市住民がボランティアとして、被災地に入っていきました。そこで気がついたのは、都市住民の支援者と被災者の関係というのは、そっくりそのまま消費者と生産者の関係ではないかということです。
多くの都市住民の支援者の方は、生まれて初めて漁師に会ったと言っていました。日頃自分たちが食べている魚介類を、獲ったり育てている人たちに初めて会い、食べ物の裏側にある農家や漁師、生身の人間に触れて、その世界に共感していきました。
今の時代、自分が食べている食べ物を誰が作ったのか分からないのが普通になってしまい、2%の生産者と98%の消費者が分断されている状態です。その食べ物の裏側の生産者に触れたことで、共感して参加していく人たちがすごく増えていったのです。
共感と参加というのは、支援ではありません。支援というのは、結局上下関係というか、支援する側は口には出さないけれども、かわいそうな人たちだから助けなきゃいけないという思いもあるし、支援される側も、やっぱり支援され続けていると卑屈な気持ちになっていくので、これは恋愛でいうと片思いみたいなものですから、長続きはしません。支援という上下関係ではなく、連帯という関係にならなくてはいけないと感じました。連帯というのは、お互いの世界の相互理解を深めて、価値を提供し合い交換し合って、お互いの強みでお互いの弱みを補い合っていくという関係なのです。消費者自身が食べ物の裏側にある生産の世界に共感して、その世界を守るために、消費者としてできることに参加していくという、そういう流れが被災地で部分的に起きていったのです。
    

東北食べる通信を立ち上げる
その流れが日常で出来ないのかと考えたのが、東北食べる通信という食べ物つきの雑誌です。東北の人たちは、閉鎖的で保守的でスキルやノウハウやネットワークがなかったわけですけれども、都市住民はそれらを持っています。被災地に来た都市住民の人たちが共感し参加して、それぞれの生産者や集落が課題を解決していきます。被災地の課題解決力が上がっていったのです。そして面白かったのが、助けに来たはずの都市住民が逆にむしろ助けられて、都市部に帰っていくという光景を目の当たりにしたことがもう一つの大きな気づきでした。いわば、都市住民が共感した世界というのは、都市の生活者が今生きづらさを増している、それを解決する世界が実は漁村の世界にあって、いわば生き物として人間として復興して、都市に戻っていって、都市での仕事の生産性が上がっていったという話をする人たちがすごく多かったのです。こういう連帯の関係を日常生活でやりたいと思って、この事業を立ち上げました。
食べる通信というのは、世界初の食べ物つきの情報誌です。情報誌がメインで、食べ物が付録です。一般的な宅配サービスは段ボールに野菜と生産者の情報をちらっと書いた紙が1枚入っていますが、食べる通信はこの紙1枚のほうがメインで、食べ物の裏側に隠れていて見えなかった自然に働きかけて、われわれの命の糧の食べ物を生産するという、生産者の生き方だったり、世界観だったり、人生自体が言わば価値だと僕も気づきましたし、そちらをメインにして、その方々が育てた食べものを付録にしたのです。
 

 

 

生産者の人生を伝える
今、日本の1次産業の世界は、ほとんど食べ物の表側だけの勝負になってしまっています。美味しいか美味しくないか、いかに安いかという価値だけです。きつい・汚い・格好悪い・稼げない・結婚できない5K産業とか言われて、東北の被災地も、もはや日本人の力だけでは支えられなくて相当外国人が入ってきています。
命とか自然というのは、本当に非効率というか人間の力の及ばないコントロールできない世界です。そこに働きかけて子育てをするように食べ物を生産しているという世界を誰も知らなくなってしまったのです。いわば工業製品と一緒で、食べるという行為も、車にガソリンを給油する行為とほとんど変わらない行為になってしまったので、食べ物を作ること自体が、すごく低くなってしまったのです。
しかし、そこをしっかり伝えることが価値でした。東北食べる通信は16ページの1500人読者限定の定期購読サービスで、毎月一人の生産者を取り上げ、その人生を書きます。生産者はいわば育ての親ですから、どういう教育方針で、その生産物を育てたのかということも書きます。どんな風に地元で料理しているのかレシピも載せて届けます。お客さんの元に、殻つきのままのウニや、わかめも人間の背丈よりも大きい2メートルぐらいのわかめをそのまま発泡スチロールに入れて、わかめを養殖している漁師の物語をセットにして送ります。そうすると、まずその物語を読みます。読んでから食べると、同じ食べ物でも美味しく感じるのです。
普段われわれ消費者というのは、甘いか甘くないなど舌でしか味わっていません。食べ物の裏側の生産者を知ると、頭を使って食べ始めるのです。共感とか感謝という、どんな一流のシェフでも味付けできない味付けが加わる分、同じ食べ物でも美味しく感じられる。食べ物が育つ過程をちゃんと伝えれば、結果としてその食材の価値が上がるのだと確信しました。
  

 

 

生産者と消費者が自発的につながる
食べる通信は、生産者と消費者をフェイスブックでつなげています。1次産業を情報産業に換えるのです。フェイスブックで特集した農家の人と1500人のお客さんをつなげてみると、コミュニケーションが始まって、その生産者にごちそうさまの感謝メッセージが届けられたのです。初めて自分の口の中に入れる食べ物を作っている生産者と出会って繋がって、その生産者の物語も読んで共感したので、息子とこんなふうに料理して食べましたとレシピと写真を載せたり、トマトが食べられなかった娘が生産者の物語を聞かせたら美味しいと食べるようになったとか、交流が始まったのです。
農家と漁師は孤独です。普段は海と畑で1人でポツンと仕事していて、誰にも見られていません。どんなにこだわって作っても、出荷してしまったら終わりで、どこの誰が食べてくれているのか分からない。感想も何も聞けないと言っていた人たちが消費者の生の声に触れることで、作り手冥利に尽きるというか、報われるというか、生産意欲を増していったのです。
 1カ月そうやってオンライン上で交流してもらった後、最終的には現地に出掛けてもらいます。そうなるともう本人の魅力には勝てません。本人と会って会話しながらお酒飲んで、本人の魅力にほだされてしまう。今度、収穫祭があるから来ないかとかいう話になり、みんなが勝手に現場に行き始めました。勝手にというところもポイントでありまして、悪く言うと勝手にですが、よく言うと自発的に、です。
 

生産者の顔が分かったから起きた出来事
食べる通信はコミュニティサービスです。生産者と消費者に繋がってもらうことが目的でした。生産者と仲のよくなった読者が、恋人や子どもを連れて家族で農家や漁師を尋ねて、初めて実際に土をいじったり、波に揺られたり、一晩お酒を飲むともう親戚付き合いみたいになっていくわけです。
 秋田県潟上市で米農家をやっている青年を特集しました。彼は環境にも人間にも優しいお米作りをしています。3年前、天候不順で夏中ずっと雨が降り、稲刈りをしようと思ったら田植えのときぐらいに田んぼの土がぬかるんでいて、稲刈り機が使えなかったのです。やむなく家族で鎌を持って手で刈り始めたのですが、膨大な面積でとても終わりそうにありません。秋田は早く寒くなって雪も降るし、大半の米を駄目にしてしまう。そこで、彼は一生に一度のお願いだと言って、食べる通信の読者グループにSOSを発信しました。そうしたら、彼の友人も含めて延べ200人がわざわざ有給をとって、自腹を切って秋田まで飛んで行き、皆で一斉に刈り初めて、3週間で刈り取ってしまったということが起きたのです。
 ちょうど同じ年に、米の値が暴落して全国の米農家が泣いたというニュースがテレビ・新聞で流れました。毎日食べているお米を作っている農家の話ですから、テレビを見ている時は大変なのだなと思うのですが、テレビを切った途端に人ごとになるのです。困っている米農家の顔が具体的に思い浮かばないのです。思い浮かばなければ共感して参加できません。でも米農家の顔が思い浮かべば、同じ出来事があったとき、他人事と思えずに200人が飛んでいったのです。
  

 

 

都市と地方、それぞれが補う関係
都会は徹底的に人間の思い通りにならない世界である自然を排除して作っています。人間の思い通りになる快適な世界とも言えますけども、頭しか使わない脳化社会で生きる実感がわかないという言葉を、この仕事を始めてよく耳にします。
生きる実感がわかないということはどういうことだと思いますか。生き物であることを感化できなくなることだと思うのです。なぜ、都会の人はあれだけ走るのでしょうか。土日の朝の皇居やジムで、まさに自分は生き物であることを確認するように頭と体のバランスを取り戻そうとしています。たまに田舎に来て、生きる実感を取り戻して都会に帰っていく人の何人かが、東北食べる通信を通じて農家や漁師と出会い、その交流から自分たちの何かあったときの逃げ場というか、命のよりどころ、生存基盤を得て退会していきます。これは、まさに上下関係ではなくて連帯です。お互い都市や地方で仕事は違えども、それぞれの強みでそれぞれの弱みを補い合うような関係になっているわけです。
 

東北から世界に広がる
生産者と消費者がつながる豊かな食の世界をこの国はちゃんと可視化していかないといけません。そこで考えたのは、横展開です。食べる通信リーグは今、北は北海道から南は沖縄まで、この2年間で36地域に広がりました。そして、日本の生産者の減少スピードの速さを考え、ポケットマルシェを立ち上げました。生産者が自ら消費者と繋がり、制限無く参加できるので母数が一気に広がるのです。
 最近は台湾と韓国でも翻訳され、日本の農村と同じ課題解決で始めたこの取り組みが受け入れられたようです。日本が10年後に直面するであろう課題が、待ったなしで突きつけられたのが東北の沿岸部だと言われました。東北から世界に広がるモデルが出てしかるべきというふうに思い、実際日本にこうして産業が広がり、今や台湾や韓国も含めて海外へ広がろうとしています。
潜在的に価値の消費を求めている都市住民がたくさんいる中で、いかにこの食べる通信やポケットマルシェというPtoCの価値を広げていくかという課題に、日々直面し取り組んでいるところです。

   (「SPRINGシンポジウムin仙台」より)

 

※一般社団法人日本食べる通信リーグ/特定非営利活動法人東北開墾が運営する、食べ物つき情報誌「食べる通信」は、第1回日本サ―ビス大賞地方創生大臣賞を受賞されました。