経営者の声

2017年1月30日

株式会社とくし丸 代表取締役 住友 達也 氏

「社会貢献型移動スーパー『とくし丸』

 

 

移動スーパー「とくし丸」の登場
4年前に全国初の移動スーパーを始めました。買い物難民は現在700万人と言われていますが、買い物難民が生まれた原因の1番は、スーパーがどんどん大型化し郊外に出ていき地元で気軽に買えていた商店がなくなっていったこと。地方都市は特にそうで、車を使い買い物をするには非常に便利ですが、車に乗れなくなった途端、買い物難民になってしまいます。核家族化し高齢者の単身世帯が非常に増えてサポートする人もいません。ただ、食品は手元にないと生きていけず、皆さん何らかの方法で食品を手に入れます。その一つがネットスーパーですが、私たちのお客さんのほとんどは80歳前後で、ネットを使うことはまず無理です。お弁当の宅配も最初はとても喜ぶのですが、1~2ヶ月すると飽きてお弁当の業者を3ヶ月に1回変えるという涙ぐましい話もあります。食材の宅配サービスも、「注文して1週間後に商品が届く頃には、自分が何を頼んだか忘れてしまっている」と言うのです。そのとき食べたいものを、そのとき選んで手に入れて、その日のうちに食べたいというのが、おそらく人間の本能だと思います。行政が補助金を入れてコミュニティーバスを出しているところもありますが、これも「バスに乗るために洋服を着替えないといけない」「化粧しないといけない」と言うのです。気軽にお買い物に行こうというときに、着替えないといけないのは煩わしいことだと思いますし、バスは1時間に1本か2本ですからとても不便です。少し足が悪いとか、握力が落ちている方が、かさばるもの、重いものを持って自宅まで帰るのは非常に苦痛です。家族に送迎してもらうのも良いとは思いますが、実の息子・娘でも、仕事で疲れて帰ってきて一緒に買い物に行く、あるいは貴重なお休みに一緒にスーパーに行くというのが定期的になると負担になってきます。母親もそれに気付き、メモを渡して買ってきてもらっても、やはり自分で見て選んで買うのとは決定的に違い、そこでも不満が残るということが分かりました。
そこで、全ての不満を解消する手段が、一番アナログで面倒くさくて儲からないと言われていた移動スーパーです。全車両、軽トラックで、下に冷蔵庫があり、荷台は三方向跳ね上げ式の扉でまるまる商品棚になります。三方向開いていますから、20人、30人のお客さんでも販売員は1人で対応可能で、大体400種類1200点の商品が乗っています。

 

  

3つの事業目的と持続するための仕組み
事業の立ち上げ時に三つの目的を決めました。第1番目に「買い物難民をサポートする、命を守る。」2番目に「地域のスーパーと提携して売り上げに貢献する。」3番目に「個人事業主が販売することで仕事を創出する。」を大きな柱として事業を組み立てました。
よく社会貢献などと言いますが、私はビジネスとして行っています。事業は持続可能な正当な収益構造ができないと維持できません。ただ、ビジネスとしてやった結果それが世の中の役に立ったり感謝されたりとなれば、それはありがたいなと思いながら持続するためのシビアな仕組みを考えました。とくし丸本部はプロデュース会社で、社員は私を含めて4名ですが十分やっていけます。地元のスーパーさんと提携して商品を提供していただいき、販売パートナーと呼ばれている個人事業主が販売代行しますので、仕入れはゼロで売れ残った生鮮品は夕方5時までに店に帰着して返品するという仕組みです。個人事業主というのが大きなポイントで、彼らは自ら経営者として考え工夫をして、私たちはアドバイスを求められればそれに答えるという関係で進めていて、労務管理もいりませんし、皆さん本当に楽しんで頑張っています。

最初は我々本部とスーパーと個人事業主の三者でこの仕組みを作ろうと思ったのですが正直儲かりませんでした。私も創業から3年間は無給でした。そこで店頭の商品価格に全てプラス10円させていただくことにしました。商品の容量や価格に関わらず、商品1点を玄関口までお届けする付加価値に対して10円くださいという発想です。これがお客さんに受け入れられ4者の協力となりました。10円の中の5円を個人事業主に返し、5円を地域のスーパーさんに返します。これでスーパーさんはほぼ30%の粗利が確保できています。スーパーさんは、イニシャルコストはほとんどかかりませんが、生鮮品の返品ロスを受け入れていただくというルールです。でもこれも全く廃棄になるわけではなく、店頭でまた2割引3割引のシールを貼って再販し、夏場でもほぼ廃棄ロスはありません。個人事業主の方は、トラックが300数十万円というちょうど手頃な金額で事業主になれるので、非常に問い合わせも多く、我々の事務所だけでも今600人ぐらいのリストがあります。提携先のスーパーさんにも直接問い合わせがあるでしょうから、それらを含めると非常に多くの希望者になります。収入は、トップランナーの方でガソリン代や保険代を引いて月額50万円ぐらいが手元に残り、地方都市では十分悪くない仕事くらいまでになっています。三者の役割分担を明確にし、リスクを分散させることによって非常に効率的なビジネスモデルができました。今まで散々大変な思いしてきたおかげで、後追いされても多分追いつかれないノウハウを手に入れたかなと思っています。
 

 

  

移動スーパーの概念を越えるヒューマン・ネットワークというインフラ
移動トラックは、おばあちゃんたちのセレクトショップでもあります。400種類1200点の商品を乗せていますが、「次はあれ持ってきてね」とか、「こういうのないの」というお話にどんどん対応していくと究極のセレクトショップになっていきます。これが非常に強みで、欠品感はほとんどなくお買い物を非常に楽しんでいただけます。おばあちゃんのコンシェルジュになろうと、3日に1回おうちの前へ行き、顔合わせて会話をするということを何ヶ月、1年、2年と続けるうちに、「県外の実の息子や娘よりも、とくし丸のお兄ちゃんのほうが頼りになるわよね」という話になります。
売り上げを上げるためにはいろいろと工夫をするのですが、買いすぎて賞味期限を切らせて捨てさせてしまうことはだけは絶対にしてはいけないと『売りすぎない、捨てさせない』とマニュアルに書いています。買いすぎるおばあちゃんがいたら「買いすぎだよ」と伝え、糖尿病のおばあちゃんがいたら「甘いものは駄目だよ」というふうに、売らないことさえしています。でも、それが必ず信頼関係になって、ビジネスとしてプラスになるのです。

最近では大手メーカーさんからサンプリング調査の依頼が続々と来ています。若い人のマーケティングリサーチは、ネット、電話、街頭インタビューと色々な手法がありますが、80歳前後のおばあちゃんのマーケティングチャネルはほぼ存在しません。先日も新商品のヨーグルト1万個を無償で配りました。アンケートの回収率はなんと50.8%と、80歳前後のおばあちゃんから大量の手書きアンケートが回収できました。しかもそれをきっかけにリピーターになり、商品が売れ続けています。このヨーグルトは結構高くて170円するのですが、おばあちゃんたちは、「少し高くてもおいしいのを持ってきて」と皆さん言われます。それぐらい贅沢しても、もういいじゃないかっていう話です。今多くのメーカーさんの商品調査を行っていて、これがもう一つの仕事になると考えています。
2016年現在、全国で158台ぐらい稼動していますが、毎月10台ぐらいずつ開業が予定されており、年内には200台を超えると思います。1台で150人~200人のおばあちゃんをカバーしていますから、現在2万人強のおばあちゃんたちと1週間に2回、顔を合わせて話ができるというネットワークを作っています。もしこれが1000台になると、15万人~20万人のおばあちゃんと、3日間あれば直接会って話ができるというネットワークができあがるのです。
私はもともとメディア業界で働いていたので、移動スーパーをやっているという感覚があまり無く、食品をお届けする仕組みを使うことによって、対面型のヒューマン・ネットワークを全国に作っているのだと考えています。これが今後、また次のビジネスに大きく役立つだろうと感じています。

移動販売というと山間地や限界集落をイメージしますが、実は東京・新宿区の四谷でもとくし丸が走っています。四谷も幹線道路を1本入ると本当に狭い一方通行の道ばかりで、そういうところにたくさんのお客さんがいらっしゃいます。四谷のおばあちゃんたちに話を聞くと、片側4車線の幹線道路を川と呼んでいて、スピードを出した車が川のように流れて、そこを1回の青信号で渡りきるのが怖いと言うのです。買い物難民は、田舎だけではなく日本全国どこにでもいるのです。
徳島では、県や各自治体と見守り協定を交わし、見守り役をして数多くの体調を崩した高齢者を救っています。これから超高齢化社会になったときに、自治体、国は対応できない、お金も人も足りないとなったときにどうするのでしょうか。我々は、自治体から補助金もらうつもりは全くありませんが、ぜひこの仕組みを広げて、少しでもサポートをさせていただけたらと思っています。
 

とくし丸で地域連合を創る
とくし丸本部の儲けは、フランチャイズではなくロイヤリティで「テイガク制」です。定められた額であり、低い額です。ですから、提携したスーパーの売り上げが上がるほど、利益が地元のスーパーと個人事業主に還元されるという仕組みで、とくし丸本部は契約台数が増えないと収益があがらない仕組みです。とくし丸本部は名前とノウハウを提供するだけで、中間マージンを取るような介在はしないようにしています。最初に県外で導入していただいたスーパーの経営者にこの条件を伝えたときに、「住友さん、そんな条件でいいのですか」と言われました。ずっと地元の食を支えてきたスーパーさんと「とくし丸」というキーワードで緩やかな連合体を作り、大手の資本に対抗できるようなネットワークを組みたいと考えています。そのためには、デザインや音楽などは全国区で通用するようなレベルで進めています。2016年秋から徳島で「とくし丸+(プラス)」という車を実証実験で走らせ、洋服、衣料品、靴、生活雑貨、を乗せて売りに行こうと思っています。週に2回、食品のトラックが来て、1週間とか2週間に1回スペシャル号が来るという形です。今、富士通さんと連携して、移動ATMも開発中で、2017年いよいよ実証実験が始まります。一万円札しか出金できない超小型ATMをとくし丸に乗せ、年金支給日におばあちゃんたちにお金を下ろしてもらおうと思っています。

今70歳前後の団塊世代の方々が免許の更新も非常に厳しくなり、買い物難民になってしまうことを考えると、今後15年から20年は間違いなくこの市場は伸びます。事業の成功の秘訣は時代背景です。その時代、時代に求められる市場が伸びる、これから世の中が求める市場にビジネスを作ることがとても大事なことです。この会社はM&Aで今年(2016年)の6月にオイシックスと一緒になっています。あと2年間は社長をやれ、好きにやっていい、やりたいなら引き続き何年でもやっていいという条件で引き受け、人生始まって以来の雇われ社長をしています。今までは、信用が得にくい個人事務所みたいなところでしたが、オイシックスの子会社になったことで、関東や西日本の大きなスーパーさんと契約が決まりました。現在37都府県65社のスーパーさんと契約済みです。徳島だけも年商は6億円を超え、最終利益率は6.9%です。実際の店舗が1~2%という利益率を考えると、店舗規模で15~20億円くらいの店舗を1店舗作ったのと同じぐらいの利益ベースになっています。スーパーさんも決して無視できない存在になってきていると感じています。

 

 

 
(「SPRINGシンポジウム2016 in札幌」にて)

 

※株式会社とくし丸が運営されている「社会貢献型移動スーパー『とくし丸』」は、第1回日本サ―ビス大賞農林水産大臣賞を受賞されました。